2018年8月5日日曜日

香天集8月5日 石井冴、玉記玉、森谷一成ほか

香天集8月5日 岡田耕治 選

石井 冴
絡ませており空蝉の指として
三人が青くなりたりかき氷
あげは蝶人の匂いのする方へ
円柱の横たわりたる大暑かな

玉記玉
文字盤を砂こぼれゆく熱帯夜
豪快な風の一刷毛ハンモック
胸鰭が欲しいだなんてバルコニー
蛇衣を脱ぐ喉過ぎる水のよう

森谷一成
地震(ないふ)るや母の齢をまた更に
衛星に繋がれて在り半夏生
魂や刑の支度の刻一刻
戞戞と灼けた護岸を転げ落ち

渡邉美保
夜遊びの果ての水母の流れけり
炭酸水微炭酸水雲の峰
箱庭に置くサーカスのテントかな
蟬時雨時折まじる妣の声

藤川美佐子
目撃はいづくにありし梅雨鴉
悲しみや凌霄の花流れゆき
草の息我が魂のありどころ
足裏に魚の目やどり敗戦日

西本君代
聞こえない声を聞くよう蛍狩
炎昼や麺を硬めに茹でておく
田中といふ吾が故郷よ青田中
百年の高楼にして宵涼し

澤本祐子
無事ですとつながる電話梅雨はげし
青蔦の遠き日が見え喫茶店
梅干の種をとばして吉事まつ
手のひらに包む木漏れ日心太

釜田きよ子
夏帽子被る律義な影法師
昼寝覚砂漠の水を飲みしこと
空蝉を夫婦のごとく並べおく
頭数揃ったところ西瓜切る

宮下揺子
暑そうな猫が漱石旧居跡
定住の意志を固めて夾竹桃
百日紅きょう一日を生き抜いて
炎昼や夫の歩幅に追いつけぬ

北川柊斗
包容力もちたる泰山木の花
大西日比叡の腹をケーブルカー
おいそれと変わらぬ性や夾竹桃
ビル街の風まどひたる晩夏かな

神谷曜子
一両電車突き抜けてゆく敗戦日
夏蓬捨てられるものみな捨てて
夕焼に電線迷い込んでおり
思春期の匂いの背中夏休み

古澤かおる
滴りやラブラドールの黒光り
着崩れぬ為の一本藍浴衣
花氷地産地消のサラダから
ポイントは護岸の近くヤマメ釣り  

羽畑貫治
空蝉や道にころがる風のあり
逆走の台風が行く天と地と
アシストのギアをトップに夏雲雀
平成の最後の夏を法師蝉



*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

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