寒紅で記すことでもあるまいに 久保純夫
「儒艮」27号。松任谷由実に「ルージュの伝言」があって、バスルームに口紅で別れの言葉を残してきたという内容だった。歌は「あの人はもう気づく頃よ」と始まる。口紅で残される伝言というのは、もうそれだけでメッセージが含まれている。若い頃は、こんな歌なども聴いたり、口ずさんだりしたけれど、今になってみると、口紅で書くほどのこと、いや、書かれるほどのことは何も見当たらない。そんな気分は、淋しくもあると思われがちだが、当人はそうでもないのである。作者の回りには寒紅でメッセージを記す人がいるのだろう。それは、それでうれしいものだ。「記すほどでもあるまいに」という表現に、そんな両方の感情が含まれている。あえて、切れないで流れていく書き方もいい。
*池田市立ほそごう学園にて。
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