香天集1月27日 岡田耕治 選
石井 冴
やわらかくなるまで歩く冬林檎
裏側に回り焚火の手となりぬ
マスクしてビッグイシューを立たせたる
親鸞の言葉に迷う黒マスク
谷川すみれ
裂ける幹とぐろ巻く根と桜立つ
遠巻きにつつじが囲むステルス機
雛罌粟の思いの丈というがあり
しゃぼん玉追いかけてゆく消えてゆく
橋爪隆子
人波のひとしぶきたり初詣
水仙のうつむき海と空の青
着ぶくれて会話の中をさかのぼる
年末や隣のレジのよく進み
木村博昭
手袋と素手とつないで離さざる
天井へコルクを飛ばし女正月
寒暁のトランペットの祈りかな
隣国はいつも隣国冬怒濤
澤本祐子
初御空一羽の鴉旋回す
見慣れたる海山にして初景色
重箱洗う十三人の節客の
雪よりも冷たき雨となりにけり
辻井こうめ
かんつばきかんのんさまの閼伽の杯
負けを知る覇者晴れ晴れと寒桜
挨拶はひと言につき年酒酌む
初明り飛行機雲の太さにも
前塚かいち
アマモ揺れ冬日も揺れて里の海
読初や修司編著の童謡集
北欧の冷えを届けるムンク展
冷えている厨房に置き文庫本
岩橋由理子(12月)
柿干して二上山を捕らえけり
黍の飯アイヌの古老が届けたる
秋の夕漂流ポスト影まとう
先先や水引草に問うて行く
坂原梢
人参の山と積まれし夕日かな
冬霧につつまれてゆく桂川
年迎う八十路のガイドはつらつと
淑気満つ朝日をあびる大極挙
岩橋由理子(1月)
赤まんま駆け行く子らが踏み拉き
秋風やあっけらかんと過ぎ去りぬ
秋高し城も時間もひとり占め
旧姓に振り返りおり秋の暮
中嶋紀代子
寒椿鈍感力を磨きたる
横を向く侘助遠き日の方へ
野性味の蜜柑ごつごつ届きたり
黒を脱ぐ話はじまる初鴉
越智小泉
生きている実感寒の水通り
わが庭に一色点る冬薔薇
七種や東洋医学ここにあり
日脚伸ぶ坐してゆきたく鈍行で
北村和美
木枯やかすかに香る束ね髪
日向ぼこだるま絵本を読み聞かす
三十三才あちこちのぞく三才児
初東風のいつも通りの風の跡
*大阪市内にて、寒桜。
0 件のコメント:
コメントを投稿