香天集2月23日 岡田耕治 選
石井 冴
竜の玉父がうしろで拾うなり
水仙に許されており膝頭
人間の指に恋する薄氷
紙雛いつから左右入れ替る
谷川すみれ
茎立やいずれにしても家を出る
魂の息するところ山葵沢
自らに巻きついている藤の昼
沈丁花男の思考はがれゆき
安田中彦
逃ぐるのは東の方か鬼やらひ
表札や春よ春よと濤の音
寒明くる遥かなものに膝頭
後の世は囀の木のあるあたり
柴田亨
風花やメタセコイヤのシンメトリー
黒々と裸形のいのち天を衝く
雨去ってひかりのなかに梅一つ
枯れ笹の基地に少年雑誌あり
中嶋飛鳥
逍遥の四温の空を鳶とあり
踏みて去る靴に従う薄氷
春一番腿の辺りを細くする
春愁に当てカステラのザラメ糖
辻井こうめ
春光や書庫に待つこと半世紀
復刊のハードカバーや春の草
女正月ケーキセットでしめくくり
あけぼのの音無き空の野梅かな
中嶋飛鳥
足で踏む闇明らかに大根穴
後ろ頸飲食のあと冬ざるる
侘助の顔見れば足る風邪籠
長椅子に手足を預け春を待つ
正木かおる
糸ようじ苺の種を押し隠す
あちらこちら白のマスクの不信任
文旦のかおり二分に駆けてゆく
半島は菜の花のいろ鳥の眼に
木村博昭
寒紅の口を大きく唱いおり
健やかに老いて炊き立てに納豆
薄氷や問診票のペン止まり
銀行に客用トイレなき余寒
古澤かおる
かき混ぜて始まる神話春の潮
立春大吉寝転んで読む絵本
新聞に必ず座る子猫かな
春の色靴の箱ならいりません
*東京池袋にて。
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