森谷一成
負け組のおれに飼われて猫の恋
蒲公英のここを右翼の守りとす
桃青む三鬼歯科医でありし日も
水ぬるむ底に妹背の羞にける
浅海紀代子
夕桜この世へ橋を渡りけり
老人が居たはずの椅子陽炎燃ゆ
花の径ひとり歩きの佳くなりて
えびねの芽数えて今日を満たしけり
中嶋飛鳥
花冷えのペダルの遊び儘ならず
春愁い石鹸の手の泡まみれ
遍路笠父母の影垣間見て
手を洗う視線の先を紅躑躅
橋爪隆子
紙風船真顔に頬をふくらます
春光や歯科院を出し骨ゆるむ
定款の文字びっしりと春寒し
廃業の貼り紙に花吹雪かな
中濱信子
被写体の次ぎつぎ替わる桜かな
わだかまりさっと吹かれて風青し
夏来るしぼり切ったる布巾より
田水沸く里は昔を取り戻し
河野宗子
冴え返る中央環状線の音
品薄の続いていたり花は葉に
寝たきりの空を目がけて燕くる
花冷や歩けぬ我の靴のあり
釜田きよ子
生命の初めの儀式種浸
葉桜の力を借りて晩年を
意識して腕振る散歩花水木
すり鉢を捜し始まる木の芽和
吉丸房江
行先はどこでもいいよつばくらめ
出番待つ新入生のランドセル
花見酒心の中で酌み交わす
心まで荒ばせまいと木の芽和
朝岡洋子
さくら咲く止まったままの観覧車
春の波素足の裏を逃げる砂
ひとひらの花に追われる風のあり
世の果のウイルスなるや復活祭
前塚かいち
ゆく春のコロナ禍の海渡りゆく
コロナ禍の地球に近く春の星
三本のハーモニカ吹く遅日かな
スリッパと猫と娘の遅日かな
羽畑貫治
鳴き声を訪ねて来たり麦の秋
襖外すおみなの来たる風のあり
蚊の声の頬に触れきて紅を差す
田草取上着を脱いで足を出し
櫻井元晴
白蝶や空の青へと吸い込まれ
襟を立て見上げてたりツバメの巣
蟻穴を出るに従う散歩かな
桜舞う無人の駅は宴席に
*泉佐野にて。
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