2020年6月28日日曜日

香天集6月28日 石井冴、玉記玉、安田中彦ほか

香天集6月28日 岡田耕治 選

石井 冴
玉葱の仲間に入る漢かな
県境行ったり来たり雨蛙
胸板のつながっており三尺寝
棕櫚の花髪にわずかの南の血

玉記 玉
割り切れぬ卵が一個夏休
演説のような噴水あっと終わる
ボート漕ぐ十年前も月曜日
灼け石か天使か振り向かぬことに

安田中彦
夏めきて陸のかもめと対峙する
水際なる中也の釦風死せり
梅雨晴や兄は鳥籠捨てにゆく
炎昼の空家を鏡出てゆけり

三好広一郎
似顔絵と比べてどこがさくらんぼ
金槌の頭抜けたよ花は葉に
平均に耕しているかき氷
炎昼の干し草囁くように痩せ

柴田 亨
何よりも元気ですかと燕来る
人の世の理照らす朧月
街灯へ沈丁わずか開きけり
集まりてざわめき夏の石仏

森谷一成
男ばかり壁の反復つばくらめ
夥し樹液にとまる蝶の翅
機影なし白詰草の径すがら
囚われの数を読むなり行行子

中嶋飛鳥
両隣空席となり落し文
唐突な病軀のはなしビール注ぐ
六月の裏口に立つ他所の猫
六月の羽をひろげて濡れそぼつ

木村博昭
桜の実色を深めて耳朶を恋う
金ピカのネイルを這わせ枇杷をむく
蜈蚣には蜈蚣のくらし物の陰
日日草きょうの曜日を問われけり

中嶋紀代子
紫陽花の白を貫き通しけり
ごきぶりよ敵のごとくに扱われ
何祈る五体を開く蜥蜴として
どくだみや我の存在理由問い

前塚かいち
一本の背筋を糾し花菖蒲
父の日の父の銃口空を向く
天道虫パンデミックを過ぎ行けり
夏草を刈ってほしいと島便り

釜田きよ子
今年見つけし昨年の空蝉よ
少年の首筋いつも涼しそう
非通知の着信のあり梅雨茸
不器用な生き方をして尺取虫

中濱信子
杜若手鏡抜けて大空へ
薔薇アーチ香りを着けて出て来たる
ちょうど良き距離を保てり梅雨の傘
紫陽花の柄のマスクや登校す

古澤かおる
一羽なる鷺の植田となりにけり
踏みますと先に告げたり梅雨茸
べたべたと歩いてしまい梅雨夕焼
爪伸びしままの別れや花南天

櫻淵陽子
燕来る置き配にした段ボール
五月闇知らない人がくしゃみする
ビル風を抑えて行けり夏帽子
夏の蝶掴むうつつかまぼろしか

正木かおる
鶯の鳴き真似の背についてゆく
梅雨空の展望台に集まれり
Tシャツにきみの背骨が浮いている
水筒に二本の冷茶山の路

羽畑貫治
独り居の食欲の増し処暑の風
手花火や目鼻は二メートル離れ
盆用意ここは任せと腕まくる
行水の湯をなみなみと禊桶

永田 文
子の名をも忘れていたり含羞草
夏の日に手をかざしつつ塵捨てに
休校の窓に映りて花は葉に
雨粒にさかさ模様の柿若葉
*池田市役所にて。

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