2020年8月2日日曜日

香天集8月2日 玉記玉、石井冴、中嶋飛鳥、森谷一成ほか

香天集8月2日 岡田耕治 選

玉記 玉
打水をたっぷり人麻呂を愛し
掌にひとつの記憶火取り虫
緋鯉にも浮かばぬ自由ありにけり
奥歯にはブラックホール蝉時雨

石井 冴
写真から飛び出してくるパナマ帽
箱眼鏡の中に入ってしまいけり
一日の終りの初め水を打つ
籐寝椅子耳の置き場を探しおり

中嶋飛鳥
エプロンの紐を寛げ文月へ
金釘の文字のもくろみ梅雨晴間
火宅へと一目散に紙魚走る
耳打ちのあっという間にバナナの斑

森谷一成
包囲され植田へ壁の黒い影
憮然として黴の匂いに感動す
石組みの迸(とばし)りとして半夏雨
大河くねるアスリートの肉のごと

夏 礼子
梅雨の雷ひとり観ているサスペンス
のうぜんに風の余白のありにけり
亡き人と蛍は空を深めたる
蟻行きつ戻りつ延命地蔵尊

朝岡洋子
右半分刈り込みのある涼しさよ
プールから抜く足重く出て来たる
半夏雨百より七つずつ引いて
手櫛して何もつけない洗い髪

釜田きよ子
初蝉や関西弁で鳴き始む
人間と蟻と働き過ぎてあり
羽抜鶏どちらに飛ぶもウイルス禍
極楽に咲く大賀蓮目の前に

中濱信子
百合活けて玄関に風通りけり
人影のなくて青田のそよぎかな
二人居の一人の日なりかんこ鳥
咲いてなお包み込みたり蓮の花

松田和子
父の日やバリカンの音ジャキジョキと
風紋をさくさく踏みて白日傘
心いき男ざかりの川渡御よ
噴水やガラス細工にしてしまう

吉丸房江
梅雨じめり子の髪型のバッサリと
海の日や海好きな子の誕生日
思い出せ想い起こせと原爆碑
露草の傾きながらほほ笑みぬ

羽畑貫治
菰拡げ足を投げ出し秋日傘
イオマンテ唄うウポポイ水澄めり
自転車に抱かれてゆけり黍畑
ウィルス禍と別れて蛇の穴に入る

斑 猫
夏空の遠くへ逃げてしまいけり
*大阪府庁新別館北館にて。

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