香天集10月4日 岡田耕治 選
三好つや子
曼珠沙華内気な声の集いけり
秋の蝶たとえば耳の浮遊感
木と土と骨の笛あり十三夜
蛇づかいの絵本好きな子らの秋
渡邉美保
わが顔の中に父ゐて秋の声
月出でて木琴となる木橋かな
自転車の集まってゐる橡の木
翼あるものに岸辺の水澄めり
釜田きよ子
耳打ちをされて午後から案山子かな
蓮の実の飛んで極楽見えてくる
遠吠えをしてみたくなる星月夜
ひつじ田となり懐の広がりぬ
西本君代
夏の夢マーメイドの尾しなやかに
学校に近づいて来て蝗捕る
蜻蛉やシャリシャリとした羽に触れ
そのことは見ませぬ誰も風の盆
前塚かいち
懸命に蝉と遊べる猫と居る
たまに鳴る風鈴を見る余生かな
秋暑し切り抜き記事の溜まりゆく
いわし雲放哉句集に島の地図
中濱信子
遠雷や刃物屋の刃の向き合いて
押印の指先朱し夜の秋
今年また一度だけ炊く栗の飯
釣瓶落し里はひととき輝いて
小﨑ひろ子
雨を折り野分の風の吹きやまず
ひつじ雲夢の出口をさまよいて
秋晴や深く苔むす監視塔
戒名は観月の父三回忌
辻井こうめ(2月)
春光や書庫に待つこと半世紀
復刊のハードカバーや春の草
女正月ケーキセットのしめくくり
あけぼのの音無き空の野梅かな
辻井こうめ(4月)
救はれよアスクレピオス春疾風
逃げ水の水ふつふつと沸き上がる
リビングに香りの余るフリージア
垣越ゆる辻の地蔵へ花通草
辻井こうめ(5月)
鳥の巣の一枝咥えてまた一枝
オニアザミの棘疎ましや春深む
路地裏の「昼飲」の札夏兆す
山雀のソングポストやこの一樹
辻井こうめ(6月)
みどりごのフェースシールド新樹光
齣送る愛しき人ら麦の秋
団欒を聴きゐる夜のアマリリス
ひとすみのかたばみ抜かで草取女
辻井こうめ(7月)
新生姜漬けて瓶中グラデーション
短夜や言断つ人に繰る絵本
露草の羨道覆ひつくしをり
友逝くやハイビスカスをたたむかに
辻井こうめ(8月)
貼紙の猫の見てをり梅雨の街
骸に沿ふ羽二本あり夏薊
百年の楠の声かと蝉しぐれ
赤紫蘇の香りの向う山雨して
辻井こうめ(9月)
青年の思考の自在秋扇
悲しくはないのだろうか星流る
日の色を重ね合いたり赤とんぼ
日照雨して二人の時を秋の虹
朝岡洋子
逝きたると聞きし今宵の鉦叩
朝の膳布目を残す新豆腐
下校する大きなポット秋旱
エアコンに旋律のありちちろ鳴く
羽畑貫治
暗闇の迫り来る空秋の蝉
ペダル漕ぎ一気に跨ぐ冬日和
ラケットのラバー張り替え神渡し
左右から落ち合う川や初時雨
*大阪城にて。
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