2021年1月3日日曜日

香天集1月3日 渡邉美保、森谷一成、浅海紀代子ほか

香天集1月3日 岡田耕治 選

渡邉美保
メタセコイアの下の白息待たされて
ポインセチア手鏡の中より呼ばる
延命を望まぬ人の葛湯かな
渦潮の底山幸彦と凍蝶と

森谷一成
口疾(と)くも間なき芸人ハロウィン
君僕の漫才戀し木の葉髪
  セロニアス・モンクの特異な演奏から
指を反らし叩く鍵盤六林男の忌
煤逃げの靴磨かれてよく光る

浅海紀代子
冬迎う我が影の老いいとおしみ
窓を拭き寒晴の空頂きぬ
生きていればどこかが痛み花柊
ふところに犬抱く男冬深し

釜田きよ子
反骨の胸すり減りぬ着ぶくれて
手と口を汚す楽しみ蟹の脚
煮凝のあやしい部分から食べる
枯葉舞う円周率をそらんじつつ

中濱信子
菊咲いて母の忌日の近くなり
よく食べて喋って日向ぼっこかな
真っ先に日本水仙咲きにけり
寄せ鍋や一人増えても大丈夫

前塚かいち
冬の猫抱かれくる否抱きにくる
愛唱歌葬儀を流れ十二月
十二月「野ざらし紀行」読み了り
粕汁のかすかな酔いに身を任す

神谷曜子
猫の背に目玉あるらし冬日和
立ち止まるたびに身の内冬ざるる
ギブアップと言わぬ両の手さえざえと
アイシャドウ昨日より濃く冬の旅

安部礼子
冬凪を忘れて恋を見る鏡
北颪拭い去れない傷のあり
凍つる滝聴覚をまず疑って
残されし筆の咬み痕冬ざるる

吉丸房江
密にして心寄せ合う年の暮
宅配の常より多きマスク来る
ひっそりと器を出さず屠蘇祝う
丑年の娘真中に初写真

松田和子
青年の顔をしている氷魚かな
葉のゆらぎ映す温もり白障子
幼心地焼き芋を抱き帰りゆく
群れて飛びまた降下して寒雀

正木かおる
街の灯を宝石にして細雪
半泥子高階からの雪景色
曙の果実が照らし雪景色
雪籠取り直したるボールペン

羽畑貫治
盆梅や声の優しき大男
雪の夜手足伸ばして探りおり
若き女大笑いして蕗の味噌
立春や心置きなく厚化粧
*岬町小島にて。


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