香天集2月28日 岡田耕治 選
玉記玉
アネモネを軽く突いて病みあがり
すかんぽを手折るよジャズの一拍目
惜春や黄色い海となる脳
ニンゲンと名札を付けて野に遊ぶ
浅海紀代子
予定書く文字の定まり春隣
春来ると耳の大きくなりにけり
猫の子が名前をもらう膝の上
伸びしたり縮んだりして春の空
森谷一成
信号の赤を抱きしめ夜の雪
風高し鴨の上下波のまま
広告塔として来日した遊牧民が街路樹に安らぎを求め
裸木にふれてマサイの戦士どち
石垣のならわしありて姫菫
夏 礼子
一隅や風のかたちの枯葎
冬菊の花びら数えたくなりぬ
胸に棲む鬼を眠らす福は内
春の潮この身の内に蠢くもの
木村博昭
三度寝のふとんの中の小宇宙
立春や破れていたる鬼の面
こぼしたる一錠のゆえ冴返る
結界の内より外へ朧の夜
辻井こうめ
早梅や手紙を燃やす人のあり
小豆入り懐炉やさしく香りけり
初蝶やけふの日記の一行目
風花や振り向かないと決めて行く
釜田きよ子
焚火の輪磁石となって寄り来たる
シクラメン飛ぶしかないと考える
白椿まじめに自粛しておりぬ
火の鳥を待ちて裸木立ち尽くす
前塚かいち
早春の森に集いてけものたち
春荒を漂ってくる電気浮
不織布のコトバ歯がゆきマスクかな
臘梅の夕べ残り香探しけり
神谷曜子
宙満てりオリオン座から昴へと
凍て蝶になってしまえと風が鳴る
不可思議な彫刻を見て市始め
夫の忌の図面の中も寒明ける
安部礼子
身体ごと包みて春の暁は
スクリーンセーバーを解き寒明くる
しゃぼん玉一瞬映す聚楽第
汝も我も一人ひとりぞ春の闇
北村和美
一枚を二人の肩に春ショール
がっしゃんと何かを落とし猫の恋
指差しのつま先立ちの初桜
大試験耳に残れるシャープペン
正木かおる
冬林檎分かちあいたい人のあり
三月の国を揺さぶる地の疾風
春疾風父はどうしているだろう
文旦をむしると母の笑顔かな
吉丸房江
一日分春を早めに福は内
大いなるマスクも顔の一部なり
独り言猫にもありて霜柱
コロナ禍を知らぬ産声桃の花
*大阪教育大学柏原キャンパスにて
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