2021年3月28日日曜日

香天集3月28日 玉記玉、石井冴、谷川すみれ、釜田きよ子ほか

香天集3月28日 岡田耕治 選

玉記 玉
光ることして放心の青柳
落椿五感鋭く横たわる
桜貝拾うて五年先のこと
芹の水覗く昨日を見るように

石井 冴
春一番塩を振るのは一度だけ
愛しけりほうれん草を茹でてより
天空をさかのぼりゆく諸葛菜
まだ水の音のしている桜かな

谷川すみれ
手の影を金魚はじける眩暈かな
きしむ扇風機父を盗み聞き
荒梅雨や烏の羽根の動くたび
日盛りのラジオの声の予言かな

釜田きよ子
蛇穴を出てさっそくに捜し物
山桜父の匂いと思いけり
カギカッコはずれて春の色となり
桜咲きあの世この世の戸が開く

木村博昭
啓蟄の出廻っている時刻表
豌豆の笑い転げるように咲く
まなうらを折折の花ながれゆく
決まらない接種日程燕来る

中嶋飛鳥
つばくらめ高層の削ぐ空の青
悪筆のゆかしくもあり春深む
春の雨濡れて彼方を考と妣
春昼の朱唇のはなつ男声

辻井こうめ
地虫出づ小豆象虫とは別に
青首の地上一尺茎立てり
キッチンマット打てば春山ポーンポン
芹摘みのをみな明るき声を出す

河野宗子
目薬をさせば春立つ蒼い空
探梅やこの靴はいてどこまでも
手のひらにのせて香りし梅の花
廃校の蛇口の並び春日和

堀川比呂志
二月八日北へ帰ると決めておく
菜の花や熱少しある阪和線
満点がふたりあなたとつくしんぼ
立春やノートの線の青きこと

楽沙千子
黒光る土間より見えて梅真白
春埃声を張り上げボール蹴る
息をかけ磨くガラス戸卒業す
缶屑の点点とあり焼野原

櫻淵陽子
春の風行所ない祈りにも
春兆すタウンページをめくりけり
春服や一人前の顔をして
啓蟄を転がってくる団子虫
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。



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