2021年4月25日日曜日

香天集4月25日 石井冴、谷川すみれ、中嶋飛鳥、加地弘子ほか

香天集4月25日 岡田耕治 選

石井 冴
初蝶の揺らぎ火星に風の音
定刻に猫帰り来る西東忌
胎内の磁石取り出す蕨山
死が分かつまでは二人のゆすらうめ

谷川すみれ
黒塗りの全文またも夏来る
マスクの風景に点り花みづき
亡き人をここに涼しき机かな
いつか逝く時のありけり水を打つ

中嶋飛鳥
少年の隣に少女麦青む
二つ三つ竹の子余所へ行きたがり
隣人の鍵を預かり春の昼
生乾きの勲章として春の泥

加地弘子
花明り人が動けば声動き
真っ直ぐな轍が創る春の泥
桑の葉や摘むための爪渡されて
傾ぐ身を桜蘂ふる骨の音

夏 礼子
鳥雲に予報は雨の七七忌
法要の椅子のまばらに花おぼろ
花時の雨に手を入れ訃報受く
春日差抽斗を出る万華鏡

久堀博美
鳥帰るいたるところにペンと紙
ラーメンの看板赤し春の泥
霾の日の喉のつまりし地球かな
春終るあれこれのあと少し泣き

砂山恵子
日のにほひ土のにほひや山笑ふ
眠り込む春一番の吹く朝に
誰もゐずぶらんこ越しに見える空
ひとりづつベンチに坐り花の宴

北村和美
握る手と握り返す手春惜しむ
頰白や五段飛ばしの着地点
群青の水のかたまり春やぶる
まん前の緋色の袴風光る

中辻武男
ランドセル駆けるに送る親の声
我が家にも務め促す春の蝶
今の世の誓いを果たし二人
八十路苦を凌ぎ卒寿で身をたつる

*大阪教育大学柏原キャンパスにて。


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