2021年4月4日日曜日

香天集4月4日 森谷一成、渡邊美保、浅海紀代子、前塚かいち他

香天集4月4日 岡田耕治 選

森谷一成
卒業すお好み焼きを裏返し
厠から頸を抜かれし山霞む
飲み止しの泡のひとすじ原発忌
炸裂の形にあらず雪柳

渡邊美保
燕来る窓にこつんと紙つぶて
窓を開け連翹の黄に触りけり
朧夜の磁石の針の定まらず
春日影鴉の口にそよぐもの

浅海紀代子
雪の果机上一冊歎異抄
言訳を加えていたり花なずな
遠くより招く声あり春の闇
息切れの歩みを緩め沈丁花

前塚かいち
コロナ禍の雨あたたかくなりにけり
対面の日々を刻んで卒業す
宍道湖の光りはじめる蜆汁
春の宵頭上に落とす育毛剤

中濱信子(2月)
シクラメン人の話にのっており
冬の蝶陽のある方へ向きを変え
歳時記を提げて三寒四温かな
花柊なれなれしきを寄せつけず

中濱信子(3月)
競うかに見えて寄り添う水仙花
冬帽子白髪ますます増えてくる
コーヒーの香り言い合う梅日和
夜桜やぼんぼりに灯を入れてより

神谷曜子
水温む病める大地の風の中
春の雪お薬師堂の軒を借り
満開の梅林今日をゆるませる
ライラックの中からフジコヘミングが

小崎ひろ子
桜狩一樹のあれば事足りて
芝焼の匂ひ満ちくるバスの中
始祖鳥は眠りつ春の海の底
無礼講消えて清しき桜かな

河野宗子
我が影と春を一周しておりぬ
湯に離す若布たちまちよみがえる
春の野辺歩いて上着軽くなる
君子蘭時に赤い実落としけり

吉丸房江
心までぬくめていたり春の色
夕桜一字恋しくなりにけり
コロナ禍も土の中より春が湧く
嘘の無き赤子の顔と春眠し
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

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