2021年8月1日日曜日

香天集8月1日 浅海紀代子、渡邉美保、森谷一成、前塚かいち他

香天集8月1日 岡田耕治 選

浅海紀代子
昼寝覚変わらぬ部屋の有様に
生ビール泡のふくらむ一日なり
夏帽子いつもの位置で擦れ違い
白木槿近くて遠き家の門

渡邉美保
菓子箱に貝殻並べ夏終る
完熟のパイナップルにある狂気
水底に鉄の艦見ゆ八月は
白日傘方向け小石ひと蹴りす

森谷一成
笹百合の翁は召され二ノ谷へ
六月の鬼哭もれ来る澱みかな
荒梅雨や流刑のごとく竹浸る
曝書さては我が遠き日の髪一本

前塚かいち
夏蝶や老いの冒険始まりぬ
かなぶんのぶんと遊んで家の猫
七月のボーボワールの『老い』下巻
朝顔や今は北向くことにする

北村和美
夏の月リュート爪弾く太き指
向日葵の影になりても頭出し
一年間蝉の抜け殻ここにあり
沈黙の余韻の中のソーダ水

安部礼子
水中花冷めた視線の中に咲く
報われぬことと存じて水中花
戸惑いをかくしているよ竹婦人
人影の消え海岸の砂日傘

小﨑ひろ子
蝉しぐれ君の声ではありません
早起きと寝坊助が居て夏の朝
雷雲のわきて感染症の町
すれ違う夏枯の鉢そのままに

吉丸房江
ワクチンは最後でいいと油蝉
世の騒ぎスイスイスイと糸蜻蛉
逢いたいねただそれだけの夏見舞
海の日のこぶしの動くみどり子よ

藪内静枝
分解のねじ一つあり扇風機
焼き立てのパンを届けて驟雨かな
半夏生母の形見をリメイクす
髪挿のなりに咲き満ち百日紅
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。


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