2022年5月1日日曜日

香天集5月1日 渡邉美保、森谷一成、谷川すみれ、浅海紀代子ほか

香天集5月1日 岡田耕治 選

渡邉美保
裏返ることのうれしきあめふらし
磯遊び人に離れてしまひけり
春の山行って戻らぬ人のこと
古書市の匂ひに染まる日永かな

森谷一成
春寒を生きると決めし仮枕
弾道を値踏みしておりつばくらめ
鳶の輪の統べるそのした万愚節
女だけに通うまなざし新社員

谷川すみれ
三尺寝深く眉間の裂けてあり
音もなく狩られてしまい梅雨の蝶
サングラス自分自身を見つめおり
花胡瓜父から母を語りだす

浅海紀代子
水洟を拭いて余生を始めおり
春夕焼海の平を帰りけり
ただ祈ることのみ残り春夕焼
賑わいの昔に遠く花水木

木村博昭
遊蕩の奈落にありて蜆汁
地球儀の其処を動かぬ春の蠅
ともがらの誰も身を病み花見かな
オクターブ高き人語や風薫る

辻井こうめ
乳母車の幌に留まるさくらかな
花の昼大道芸の猿に喝
古布のアップリケ展新樹光
黄帽子の「一人で行ける」柿若葉

中濱信子
木蓮の白がつかみし朝日かな
花大根空を真青にしていたる
紙コップの酒に散りくる花のあり
葉脈のあとをかすかに桜餅

神谷曜子
ネーブルと過去がころがる夜の地震
かさぶたになった一言紫木蓮
少し病むほうれん草を湯に入れて
スパイス店初夏を調合していたる

吉丸房江
花吹雪空家に据わる椅子の位置
喜びは中より起こり春の土
あの事もこれも終りぬ昭和の日
マフラーが歩け歩けと春の空

藪内静枝
花屑を鮮やかにして吹きだまり
春惜しむ大和堤を歩き継ぎ
春愁聴き返すこと多くなり
区区の読み方を知る日永かな

永田 文
のどかさに鯛焼二つ買いにけり
石垣をあふれてしまい芝桜
竹の葉を擦る音させ鳥交る
土手いっぱい蒲公英いっぱい日を返す

牧内登志雄
自販機の灯り瞬く別れ霜
花散らす雨にも消えぬ燠火かな
藤の花重力といふもののあり
桜舞ふ独歩の先の無言館
*伊丹市立ミュージーアムにて。

0 件のコメント:

コメントを投稿