2022年6月5日日曜日

香天集6月4日 久堀博美、釜田きよ子、砂山恵子ほか

香天集6月4日 岡田耕治 選

久堀博美
ぺちゃくちゃとなめくじを飼い腐葉土は
惑星のここに水あり初蛍
新緑に酔うてとうとう躓けり
大屋根の御堂を巡る蜘蛛の糸

釜田きよ子
かたつむり今いる場所が丁度良い
更衣母には赤の記憶なく
麦の秋上手に歳を取る人と
六月の表面体温正常なる

砂山恵子
いにしへを閉じこめ夏至の羅針盤
蝉鳴きて地球温度を高くする
ぼうふらや満員の中立つやうに
百物語終へて両肩ふと軽し

浅海紀代子
胃薬を飲み込み春の愁かな
ぼうたんの散りゆく闇を共にせり
えごの花迷わず散ってしまいけり
溝浚え路地にこんなに人の居り

河野宗子
蜃気楼殺人犯はどのあたり
春眠しMRIの筒の中
くちなしの花病棟に迎えられ
したたかに俯いている春紫苑

中濱信子
悲しみはたんぽぽにある外来種
炊飯の音に包まれ春の雨
燕くる窓辺の夫それを言う
産んだ娘に叱られており五月闇

田中仁美
茶摘みする太陽の塔背にうけて
春時雨五千歩歩くことにする
パイナップル芯まで食べてゆく甘さ
夏めくや友との対話再開す

永田 文
帰りゆく薔薇一輪に足を止め
風五月駈けぬけてゆくピアスから
花蜜柑羽音せわしくなってくる
背を伸ばし羅まとう鏡かな

垣内孝雄
羅や夢のなかにて会ひし人
梅雨寒のソースたつぷりお好み焼
鎌倉の五山を巡る濃紫陽花
引つ越しす撓わのままの夏みかん

薮内静枝
菖蒲湯に菖蒲鉢巻恙なし
槌音の響きつづける若葉風
母の日に逝きし義妹塩むすび
庭石をかかえ杜鵑花の真っ赤っか

吉丸房江
春の山もっこりむっくり息を噴く
明日からの仕事の嬉しマスク無し
戦争を居間で見る日々枇杷の種
この虹を共に見ている人だーれ
*大阪市内にて。


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