2024年3月24日日曜日

香天集3月24日 神谷曜子、木村博昭、安部いろん他


香天集3月24日 岡田耕治 選

神谷曜子
蝋梅や誘うばかりで答えない
物価高へと節分の豆を打つ
初蝶の残像として眠りけり
梅一輪また子と暮らすことになる

木村博昭
笑えるはヒトの特権あたたかし
下段ほど表情豊かなる雛
春荒れる円空仏の苦悩貌
かなしみは後れ来るもの鳥雲に

安部いろん
荷を開けるカッターの刃にある余寒
シャボン玉名前ひとつもなく生まれ
自我という境を繋ぐ蝌蚪の紐
春憂い車窓は我の目を映す

楽 沙千子
朧月ナビゲーションの大廻り
梅古木庭師が軽く枝はらい
春雷の雨足強し朝まだき
榾火へと頬ふくらます火吹竹

嶋田 静
鬼たちのダンス始まり節分会
山笑うさぬき七富士小さくも
巣立ち鳥えさをくわえて隠れけり
春の田やうどん屋の旗上がりたる

河野宗子
菜の花を立ち去りがたき散歩かな
木瓜咲くやあたりの花を明るくす
梅の花一輪描いて送りけり
友と手を重ねていたる余寒かな

古澤かおる
春の昼家人微かに立てる音
釣り人が位置を変えたり春の風
永き日の猫の眼に諭される
龍天に登る朝五時二十五分

田中仁美
茶碗蒸し百合根が一つ残りけり
ちらし寿司箱に入ったおひな様
風邪の夫おかゆはドアの前に置く
春日影ひつぎの中にあんぱんを

岡田ヨシ子
春時雨脳体操の目を離し
職員の検温を待つ桜かな
桜餅友が訪ねてくるノック
道の駅シルバーカーの風光る

川端大誠
白球に追いついている春休み

川端勇健
春休み本屋に行くと在庫なし

川端伸路
春休み満車に雨が強くなる

〈選後随想〉耕治
梅一輪また子と暮らすことになる  神谷曜子
 梅の花は、春の訪れを告げる花。それが一輪咲いたことによって、長い冬の終わりが見えてくる。曜子さんは、一輪の梅から、これまでの人生を振り返り、これからまた子と暮らすことになることへの思いを静かに見つめている。うれしいとも、心配だとも、そのようになった紆余曲折などについても、何も書かれていない。ただ子と暮らすようになった事実だけが置かれているので、読む方はさまざまなアプローチで意味を受け取ろうとする。自分のことに置き換える人もいるだろう。手掛かりは、一輪の梅。この一輪が、事態のすべてを受け容れることを肯定してくれているようだ。
*岬町小島にて。

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