2024年3月17日日曜日

香天集3月17日 玉記玉、三好広一郎、柴田亨、加地弘子ほか

香天集3月17日 岡田耕治 選

玉記玉
蛇穴を出でまん中のうごきけり
上手く描け寂しくなりぬチューリップ
痛点のひとつ増えたるかいやぐら
雄弁な臀のありぬ落椿

三好広一郎
しゃぼん玉ひとつひとつの涅槃かな
どこから来た陽炎に五度の職質
あらすじをすっかり知っている余寒
駅員はみな梟になっている

柴田亨
本名を告げる余寒の罪と罰
春の闇希みはおのがつかむもの
蕗の薹土人形と共にあり
木漏れ日のささやき集め春の人

加地弘子
節分の気配の残る戸口かな
瓶の蓋簡単に空き春動く
出来るだけ小さく濃くなる菫かな
すきなだけ剪って下さい花ミモザ

上田真美
くちばしを何回も突く鳥の恋
競漕や亡き兄の影瀬田川に
春日向孫の好みの文具買う
着流しの力士の香り風光る

春田真理子
雪被る稜線の前投函す
寒月や身罷るために棲家出で
冬囲いほどき一気に広がりぬ
雪吊りを外せる脈の整ひぬ

松田敦子
醜聞の見出しを重ね春一番
鷹鳩と化してお髪の傾ぎをり
薄氷や鼻腔を進む検査棒
蝌蚪の紐今年で終わる子供会

砂山恵子
うららかや大歳時記を枕にし
草餅や昔と同じ話下手
早春や子犬の中の日のにほひ
啓蟄や俺が俺がの多すぎて

川村定子
なすことも無くて折りゆく紙雛
千鳥足背の恵比須の笹ゆらす
幼子の初の役目よ「鬼はとと」
二胡を弾く時刻定まり菜種梅雨

西前照子
白合えに三つ葉を加え祖母の味
蕾になる前に水仙伐られけり
二番まで歌うブーツの舞台かな

大里久代
若木より先に花付け老木よ
三姉妹三人官女飾りけり
春よ来いもうしばらくは土の中

〈選後随想〉耕治
上手く描け寂しくなりぬチューリップ 玉記玉
 チューリップは、比較的描きやすい花だ。幼い子どもでも、何本かのチューリップを書き、それぞれに色づけすると、それなりの作品になる。この句は、そのように上手く描けることが、寂しさにつながっているという。速く、上手く描けることが称賛されるという標準に対峙して、独自の文体を得ようと苦闘する玉さんならではの作品だ。

*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

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