香天集4月7日 岡田耕治 選
浅海紀代子
白蓮の嘘をつけない高さかな
髪切ってうっちゃている春愁
白椿咲きる傷みありにけり
野遊のいつか一人となりにけり
辻井こうめ
静かなる賑はひにあり藪椿
春ともし影絵の語るごんぎつね
まれびとの依代となる朝ざくら
女性デーのよそにゆらゆら花ミモザ
佐藤俊
春色に濃淡あって生きづらし
三鬼忌の生田の森の水みくじ
七彩の嘘に護られしゃぼん玉
三月のかたちとなって猫の昼
砂山恵子
鳩時計の鳩のいねむり聞く日永
蜂の来る対話の欲しき昼下がり
ぶらんこ漕ぐ町を貫く風となり
ビール箱車止めとす花見かな
宮下揺子
使われぬぐい呑み並べ雛納め
花蘇芳心の蓋を外しおり
しゃぼん玉亡母(はは)との記憶包み込む
天心の六角堂に春怒涛
吉丸房江
ひ孫生れ枝の先まで桃の花
天満宮梅ヶ枝餅の香りけり
ホーホケキョ目覚し時計より先に
今咲いたパンジーのよう黄蝶々
垣内孝雄
極まりの奥千本を花の茶屋
東京に大学多し夢見鳥
磔のイエスの像や風光る
チューリップまだ見つからぬ宝くじ
牧内登志雄
永訣も邂逅もあり桜咲く
桜咲く急行列車停車駅
花明り枕屏風の春画めく
花疲れ盛り蕎麦一枚酒二合
秋吉正子
満開の桜よ母は再入院
犬にある掛り付け医と春に入る
杖二本残し旅立つ春の宵
川村定子
東風吹いて破れ幟をはためかす
大小を問わず新芽は今盛り
ゆくりなく大樹の花の二分咲きに
〈選後随想〉耕治
春ともし影絵の語るごんぎつね 辻井こうめ
いたずらばかりするごんぎつねは、兵十の母の死をきっかけに、償いの気持ちから兵十の家に毎日食べ物を届ける。ある日、ごんが家の中に入っていくのを見掛け、火縄銃でごんを撃つ。兵十は土間の食べ物を見て、毎日届けてくれていたのがごんだと気付く、そんな物語が「春ともし」の中で繰り広げられた。小学校の子どもたちがはじめて出会う本格的な物語は、今も人々の記憶の中に生きている。絵本を愛するこうめさんならではの一句。
柏原市高井田にて。
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