香天集5月18日 岡田耕治 選
木村博昭
稀に来る緩いカーブや草若葉
鳥曇やれば尽きない死に支度
天道虫発つ軽さにて家を出る
濡れ縁の遺品となりし箱眼鏡
谷川すみれ
開かない大きな窓の椎若葉
更衣火傷の後に唾をつけ
男来て砥石を濡らす夏夕べ
仏壇の捨てられ守宮動き出す
三好広一郎
空缶を蹴飛ばすまでの花筏
8ミリは人間らしく夏夕べ
昼寝覚妻を跨いで米買いに
杖はいるか友はおるか葱坊主
柴田亨
始まりは新聞受けの風鈴草
友つ人散らかしたまま四月逝く
旅立ちを見送りており春落葉
五月来る緩和病棟桃プリン
神谷曜子
晩陽が菜の花連れてゆく堤
諸葛菜に占領されている私
世界中の桜を散らし大男
『青い壺』第四章の白牡丹
宮下揺子
誤字なるを謝っている春の風
八重桜原爆投下八十年
朽ち果てしツリーハウスや花茨
捩り花ひっくり返る正義論
平木桂子
ニュータウンたった一つの鯉のぼり
太き棘知らぬふりする薔薇かな
おほかたは取り越し苦労藤の花
行く春や兄の終活飄々と
上田真美
この際の歳はさておき緑立つ
花水木風にあなたが似合ってる
ミャクミャクと私と老母若楓
若葉寒車椅子から万博へ
〈選後随想〉 耕治
稀にくる緩いカーブや草若葉 木村博昭
「緩いカーブ」は、まっすぐで単調な道が続いた後、ふと現れる緩やかな曲がり道を描写していると取れる。しかし、私は野球のカーブをまずイメージした。それも「稀にくる」だから、直球が主体なんだけど、時になかなか到着しないような、大きなカーブが来る。草若葉で止めているので、初夏の自然の中で野球をしている情景が浮かぶ。多分、主体とする直球もそんなに早くない、大人たちの草野球ではなかろうか。ほっこりして、清々しい、博昭さんならではの情景描写だ。
*岬町小島にて。