香天集5月25日 岡田耕治 選
加地弘子
さつき雨眠くなったら寝るといい
シャボン玉振り向かないで風に乗る
蛇苺花の黄色は孤独です
風船の空へ抜け出す時の声
谷川すみれ
一日を解き放したる素足かな
やあやあと偵察飛行の蠅が来る
望まれて握手をしたる緑かな
ひなげしの群れてもひとりそれでいい
古澤かおる
葉桜のベンチに二人且つ長靴
蚕豆を茹でるか焼くか聞いており
髪を切り捩り鉢巻夏祭
葉桜や娘の老いに気付かさる
砂山恵子
朝五時の当直室のシャワー音
デラシネの意味覚えたる余花の寺
暮れるほど風甘くなる田植かな
夏の風原子記号の表破り
嶋田静
里山の高さを続け鯉のぼり
山小屋のカーテン染まる若葉かな
麦の秋雨の近づく気配して
青嵐ロビンフッドの潜みおり
松田和子
切株を飾っていたり落椿
水面へと浮き立つ人の花篝
朝市はや壺焼の香の届きけり
一椀を独り占めする浅蜊かな
〈選後随想〉 耕治
シャボン玉振り向かないで風に乗る 加地弘子
シャボン玉は、人のようにふり向くことはない。けれども敢えてこう表現されると、去っていくものへの惜別の念が込められているように、あるいは、前向きに進んでいくことへの応援のようにも感じられる。シャボン玉が自分の力ではなく、風という自然の力に身を任せて進んでいく様子は、人生において時の流れに身を委ねるしかないことと重なる。それを、この軽さで表現できるのが弘子さんだ。
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