香天集7月27日 岡田耕治 選
神谷曜子
満開のアカシア黄泉の匂いけり
矢車草心の蒼を深くする
手術せぬ治療もせぬと白木槿
ふる里の花野に置いて来た一冊
谷川すみれ
辞書を繰る指やわらかく秋立ちぬ
オムレツの大きさ同じ台風圏
次の手を考えている白い栗
地球儀に置き続けたる秋思かな
前塚かいち
アガパンサス咲いてこの世が曖昧に
猫の目が吾を追うなり若葉風
アンテナに絡むを任せ時計草
どくだみを残し空家の庭を掃く
安部いろん
女には大気のちから梅雨晴間
貝殻に海の傾く梅雨の月
蛍の火ひととき忘れたい記憶
落雷や闇の寡黙の中に生く
古澤かおる
白靴の待たされている箱の中
踝が浴衣の裾を急かしおり
主電源一旦切りて大昼寝
箱庭の造花を眺め不眠症
俎 石山
睦言の潜んでいたり片蔭り
備蓄米炭酸水で炊いてみる
水茄子を齧りし酒の甘さかな
夕顔に病み伏す人の小さな手
岡田ヨシ子
盆近し急ぐ退院ままならず
腰骨の痛み通せり蝉しぐれ
朝曇り小さき虎が通りゆく
亡き夫の迎えを待ちぬ盆の月
〈選後随想〉 耕治
矢車草心の蒼を深くする 神谷曜子
矢車草は、鮮やかな青や紫の花を咲かせ、どこか素朴でありながらも、その色彩は強く印象に残る。「蒼」という色は、どこまでも続く空や海の青のように、広がりと静寂を感じさせる一方で、物悲しさや憂いを表すことがある。「心の蒼」となると、単なる明るい感情ではなく、内省的な、あるいは少し切ない感情を想起させる。矢車草を見つめることで、作者の心の中にある「蒼」の感情が、より一層深まっていく。矢車草の佇まいそのものが、曜子さんの心の奥底に眠っていた感情を呼び覚ますのかも知れない。
*岬町小島にて。
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