香天集8月10日 岡田耕治 選
木村博昭
顔いっぱいカレーライスを汗し食う
物置に物を投げ込む暑さかな
この夏は三年分を老いにけり
八十回目の原爆の日を生きる
三好つや子
地にこぼる虹の一色蝶尿る
正解を探しにゆけり蝉の穴
茄子の馬ハスキーボイス連れ帰る
赤蜻蛉好きな子どこかハーモニカ
佐藤静香
満州を記しし父の書を曝す
尺蠖の空を憧れ直立す
直立から倒立前転海へ向く
黒板のメニューは二品海の家
春田真理子
青蛙葉にしがみつきゆらしをる
昼顔の首を傾げる憂ひかな
横這ひの小さき蟹の流浪かな
冥府より羽黒蜻蛉の舞ひ来たり
佐藤諒子
直線の光りとなりぬ油蝉
夕焼や子ども等の声よみがえり
妹をだまらせている真桑瓜
夕べには巻紙となる木槿かな
長谷川洋子
見舞いおり風鈴の音をたずさえて
咲き終わり近づく花の炎暑かな
玉手箱君待つ鰻櫃まぶし
お結びや萩の小枝と海苔を添え
牧内登志雄
赤子泣くか細き声よ夜の秋
盆波や母さん元気にしてますか
泣きなさい歌いなさいと梯梧咲く
ガザの子の餓死するまでの熱砂かな
〈選後随想〉 耕治
顔いっぱいカレーライスを汗し食う 博昭
「顔いっぱい」というフレーズから、皿に顔を近づけて、夢中になって食べている様々な様子が想像できる。顔いっぱいに汗をかきながら、口の周りや頬にご飯粒やカレーが付いてしまうほど、大きな口を開けて食べているところ。汗をかきながらも、その美味しさゆえに食べることを止められない。この「汗」が、食欲や熱気、そしてカレーの辛さをリアルに感じさせてくれる。博昭さんがカレーを楽しんでいる様子、そして食べるという行為そのものが持つ情熱が伝わってくる一方、食べることのしんどさも同時に感じさせる一句だ。
*岬町小島にて。
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