香天集8月24日 岡田耕治 選
湯屋ゆうや
点滴の姉の寝息やレース編む
曾祖父と白いゼリーを切り分ける
凌霄花使わずにある車椅子
腹這いで一句書きおる鉦叩
古澤かおる
夏草の踏みしだかれて静かなる
欄鋳の口よりカーブしていたり
白玉を丸める速さ競いけり
寂しさは日傘を廻す二の腕に
加地弘子
つぶやきぬ今年は啼かぬ蝉のこと
朝に来て久しく鳴ける帰燕かな
油照カムチャッカより津波来る
茱萸噛めば口中の白ざわざわと
中嶋飛鳥
美空ひばり大きく流し草むしる
はんざきに運動不足かこちおり
秋の蚊がくっ付く免許証の顔
私のツリーに触れて秋を待つ
砂山恵子
芙蓉咲く覚めざる夢を見るごとく
夜の秋地下水脈の音静か
ひとさおの朝顔持ちて転校す
夜の秋瞬きのごと雨が降り
平木桂子
松葉牡丹支配する地を広げおり
目を狙う負けず嫌いの水鉄砲
鉄道のダイヤを乱す炎暑かな
河童忌の生死を分かつ答なし
橋本喜美子
子燕の一羽となりて戻りけり
穏やかな空を振り向きほととぎす
かたばみの茂みの中の宇宙かな
夏のれん南大門にそよぎけり
半田澄夫
男日傘畳みたる手のほてりかな
これほどに思いもよらぬ男日傘
新茶飲む世界平和で一致する
緑蔭や一人で釣りをしていたる
上田真美
溶けてゆくアイスキャンデー犬の舌
時空超ゆ青磁の色のシャーベット
夕焼や鼻緒と色を同じくす
オーガスト皇帝の名は不滅なり
石田敦子
香なき八重梔子の花錆びる
点滴や熱中症から回復す
夏至の日の照りと翳りを繰り返し
夏菊の一輪を挿し父のこと
中島孝子
緑蔭のバギーの幼児扇ぐ母
早苗田の水面に映る五階建て
キャベツ捥ぐ隙間に消えし水の玉
父の日の故郷想うカフェひとり
北橋世喜子
蛍舞う母と歩きし田んぼかな
父の日や好物だねと手紙添え
行き交える手元小型の扇風機
朝から水やりすれば蚊と対峙
上原晃子
初蝉の束の間畑に耳を立て
青空を目指していたり立葵
ケータイの光跡ライン蛍から
公園の歩道を匂い実梅落つ
岡田ヨシ子
冷たくし珈琲タイム楽しみぬ
生き過ぎた痛みをかかえ冷房裡
エアコンを切ることもなく今日も生く
夏休子らの俳句を見て投句
東淑子
八幡神社蛍の後を追いにけり
朝顔の窓辺に沿いて紐を引く
仏前に集まっている父の日よ
蛞蝓を床に腹ばい見ておりぬ
市太勝人
文月のオカルトが世に広まりぬ
梅雨明ける鳴かないでいる蝉のこと
暑き日を負けてもいいよそのまんま
いつの間にか熱中症の報道に
〈選後随想〉 耕治
点滴の姉の寝息やレース編む ゆうや
病院で、点滴を受ける姉に付き添っているところだろう。姉はちょっとほっとして、寝息を立てている。レースで何かを編もうとする、そういう命の息吹を感じるとともに、ちょっと自分を落ち着かそうとする、そんな静かなひとときが表現されている。姉のことが心配だが、自分の暮らしがあるので、病院と家を往復するのは大変だ。そういう自分自身を落ち着かすためのレース編みなのである。「姉の寝息」との取り合わせが、とてもいい。ゆうやさんの素描を見ているような一句だ。
*蟷螂に上がり下がりを問われけり 岡田耕治
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