2025年9月21日日曜日

香天集9月21日 湯屋ゆうや、古澤かおる、木村博昭ほか

香天集9月21日 岡田耕治 選

湯屋ゆうや
病棟の洗濯干し場秋高し
点滴は右にされたし花カンナ
訪問の看護師が来る野分中
睡眠がデフォルトらしき月見草

古澤かおる
搦手の閑けさに飛ぶ夕あきつ
木の影に秋の気配の佇みぬ
無花果よ余熱のままを掌に
蝙蝠やしぼんだボール軒下に

木村博昭
少年の朝顔の蔓よるべなし
蓑虫よさみしいときは泣けばよい
加担してこんな地球となる残暑
新米や常より長く手を合せ

中島孝子
日輪を崇めて今日の梅を干す
片かげり入ればまっすぐステップす
蕗の傘かざし子どもら走りけり
青虫の遊び場となり透かし柄

橋本喜美子
藁焼きの土佐の鰹の香りけり
天の川引き上げの児は八十路なり
夏雲をめがけて走りハイウェイ
夕蛍草帚もて追いにけり

岡田ヨシ子
秋を待つ自分が選んだケアハウス
散歩には行かず残暑のコルセット
花芒今日の曜日を問われけり
潮を吹く牡蠣を残せり笊の中

北橋世喜子
鳴きもせず急に飛び立つ油蝉
土覆い動かぬ蝉に群がりぬ
八月や戦後の語り八十年
ふるさとの水族館の夏休み

上原晃子
忘れ杖増えゆく夏の高野かな
梅雨晴間野菜のお化け五六本
雨上がる奥の院まで蝉しぐれ
宮崎の空気を箱に梨届く

半田澄夫
生き甲斐の人に掴まれ踊りけり
看板のビール直帰を曲げており
水馬流れの上にまた戻り
全車窓日除降ろして走行す

石田敦子
停電の静けさにあり初蝉よ
向日葵の大きく育ち保育園
大暑かな手土産を持ち弟来る
小雨降る中の式典長崎忌

はやし おうはく
遠雷や浮き絵のごとく海に落ち
風鈴に息をかけたる猛暑かな
手をつなぐ園児の散歩夏帽子
夕立や逃げる旅人追いかけて

東 淑子
生き物が畳を走る夏の夜
帰り道にとどまっており赤とんぼ
鬼やんま羽ふるわせて低く飛ぶ
稲光一人の部屋に縮こまる

市太勝人
大雨のカッパばかりの祭かな
期日前投票場の蒸し暑し
喜雨上がる一生残る手拍子よ
観戦のチケットあたり秋暑し

〈選後随想〉 耕治
病棟の洗濯干し場秋高し ゆうや
 病棟の洗濯干場なので、そんなに広いところではない。しかも病棟なので、自分が閉じ込められている感じと、それから秋の空の広々とした感じと、ゆうやさんのこの取り合わせがいい。狭い選択干し場から眺める空への、どことなく寂しい感じと、そこから快復しようとする燥ぎを感じさせてくれる。
*平衡のままにしており女郎花 岡田耕治

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