2026年1月4日日曜日

香天集1月4日 森谷一成、渡邊美保、宮下揺子、浅海紀代子ほか

香天集1月4日 岡田耕治 選

森谷一成
片はしを考えている時雨雲
嚏一つ私かに核をほしがりぬ
日銀の屋根を哀れむ枯木星
生爪のマゾヒズムぞよ煤払

渡邉美保
鉄板に余熱ありけり六林男の忌
銀の楽器集まる聖夜かな
煤逃げの水に映らぬ人ばかり
石段に終りのなくて冬の海

宮下揺子
白馬老い蔦紅葉する神厩舎
裸木やアマゾンの箱飛んでくる
十二月八日青空はどこにある
つつき合うペンギンたちよ冬の空

浅海紀代子
マニキュアの手より受けとり秋茄子
柿熟るる空き家の空となりにけり
一人居の猫にもの言う夜長かな
行く先を杖にあずけて落葉踏む

釜田きよ子
家中をガタピシさせるくしゃみかな
暖房の風音以外静かな昼
身体の悲鳴あちこち師走空
注連飾る今年最後と思いつつ

牧内登志雄
今年また二人見送り日記果つ
群青の風に横たひ初筑波
湯豆腐のぷくりと笑ふ銚釐酒
古書店の扉がたつき夕時雨

楽沙千子
冬の蜂土の日向に飛びもせず
大川へ一筋の日矢冬うらら
雑草を抜きし地ならす冬日向
箒目を残し落葉の堆し

吉丸房江
スープにて味わふ冬至南瓜かな
初詣杉の木立を直にふれ
金粉の跳ねる御神酒や馬の年
同胞の四代揃う雑煮かな

大西孝子
まだかなぁベランダにいる吊し柿
バトンされ母娘でつなぐ遍路かな
冬空を茜に満たし比叡山
黄金のメタセコイヤに光りさす

岡田ヨシ子
マフラーや笑顔を浮かべ五枚編む
ケアハウス届きし毛布あたたかし
眠れない毛布にペンと便箋と
お年玉曾孫の顔を確かめる

川端大誠
初景色海風が押す扉かな

川端勇健
年越の睡魔に勝てず寝落ちする

川端伸路
正月を笑いごまかす大はずれ

〈選後随想〉 耕治
日銀の屋根を哀れむ枯木星 森谷一成
 ニュースなどで日銀の話題が出ると、よくこの屋根を見おろす映像が流れる。通常、日銀のような堂々とした建物を「哀れ」と思うことはない。しかし、厳しい寒さの中、枯れ木の枝越しに孤独に光る星を見上げ、ふと視線を落として日銀の屋根を見たとき、一成さんはそこに逃れようのない哀れさを感じたのではないだろうか。 金利や経済という、人間が作り出した複雑で窮屈な理屈を背負わされた巨大な石の塊が、凍てつく星空の下でじっと耐えている姿。それは、自由な星空から見るとひどく不自由で、痛々しいものに映っているにちがいない。

十二月八日青空はどこにある 宮下揺子
 十二月八日は、太平洋戦争が始まった日。日付をそのまま句に据えることで、一瞬にしてその歴史的瞬間の空気感へと引きずり込まれる。快晴だったと言われる開戦の日だが、その後に続く長く暗い時代は、鈴木六林男師の句集名のように「雨の時代」だった。「青空」は希望や自由の象徴であるが、それが「見えない」のではなく「どこにあるのか」と問うところに、現在を見詰める、揺子さんの深い虚無感と批評精神が読み取れる。揺子さんには、「レノン忌」の秀句もあり、十二月八日は、そのことも合わせて想起できる。
*幸ありやここを群立つ初雀 岡田耕治