中村静子
涅槃西風吸うては吐いて遠くまで
雲のほか何も映さず水温む
まなざしの変わってしまう落し角
胴上げの歓声あがり春の雨
【香天集鑑賞】岡田耕治
履き癖を残して乾き春の泥 中嶋飛鳥
春泥をつけた靴が乾いています。本当なら、帰ってすぐに泥を落とすべきなのですが、昨日は疲れていたのでしょう。そう言えば、この靴もくたびれて履き癖がついています。そのくたびれた形に春泥が乾いているのです。現実をありのまま捉えようとする作者の、このまなざしを心強く思います。
出発は靴をはくことリラの花 大杉 衛
休みの日など、一日中家に居ることがありますが、出かけてみると気分が変わり、新しい発見をすることがあります。その始点にあったのが、「靴をはくこと」。靴をはいたからこの風景と出会えた、この人の話が聞けた、この映画を観ることができたのです。
つちふれり天眼鏡の悟朗にも 石井 冴
和田悟朗さんの「風来」の編集者でもあった冴さんは、形見に和田さんが使っていた天眼鏡を持っておられます。もちろん、そんな事情を知らなくとも、天眼鏡で辞書を読む悟朗さんにも黄砂が舞い落ちてくるのは、懐かしいイメージです。でも、冴さんの話を聴いて、具体的な天眼鏡という、しかも、「天眼鏡の悟朗」に黄砂が降るという表現にしびれました。
白買って赤ほしくなるシクラメン 橋爪隆子
シクラメンを買うとき、赤にしようか白にしようかと迷ったのでしょう。白の方を求めて、窓辺に置いてみると、こんどは赤が欲しくなってきました。シクラメンに揺さぶられる自分自身を、こんなにあっけらかんと見つめることのできる隆子さんの感性がうらやましいです。
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