中村静子
吊橋がくすぐっている春の水
コルク栓上手に抜いて夏立ちぬ
羽抜鶏首を傾げたままにして
青大将静かに水を切りゆけり
宮下揺子
闇写す月光写真朴の花
青空の端から崩れ半夏生
半夏生不義理のうちに友の逝く
薫風のオープンテラス老い二人
【選後随想】
羽抜鶏首を傾げたままにして 中村静子
羽毛が抜け変わる頃の鶏はあわれですが、それをじっと見つめている作者の眼差しを感じる句です。目を背けるのではなく、見つめていると、首を傾けたまま鶏も動こうとしません。何かを考えているようなその姿に、中村さんは自分自身を見ておられるのかも知れません。
太腿てふ二本の川やシャワー浴ぶ 安田中彦
6月5日掲載。太ももが二本の川に見えるほど、強くシャワーを出しています。ああこのひと時のために、汗をかいてきたのだと思える瞬間です。ただシャワーが躰にぶつかる音だけが聞こえる、そのことによって、私自身の存在が肯定されていくようです。
冷蔵庫のぬか床目掛け泣いて帰る 浅野千代
6月5日掲載。悲しいことが多い時代。人前で声を上げるわけにはいきませんので、家まで辛抱して帰路につきます。目掛けるのは、我が家の、冷蔵庫の、しかもビニールに入ったぬか床です。なぜそんなものを目掛けるのか、理由などないのですが、ぬか床をかき混ぜて、美味しい茄子を一つ取り出す、その瞬間のためなら堪えることができそうです。
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