中村静子
翡翠や水しぶきのみ残したる
車椅子押す腕殊に日焼せり
挨拶を目で交わしゆく端居かな
心持ち軽くなりたる洗い髪
久堀博美
草汁に汚れて来たる素足かな
その奥は誰も知らない蝉の杜
水打って石の紋様を露わにす
はじまりは最も赤く夏の月
宮下揺子
静止画に動画が混ざり夏至の夜
熱帯夜点眼薬を差して寝る
モノクロの「ゲルニカ」に問う敗戦日
天の川ナイトツアーの動物園
【選後随想】
心持ち軽くなりたる洗い髪 中村静子
「心持ち」を辞書で引きますと、最初に「心の持ち方」「気持ち」があって、二番目に「わずかばかり」とあります。この句の場合、どちらかなと考えたところ、どちらも採用したくなりました。洗い髪が少しずつ乾いて、わずかばかり軽くなったので、心の持ち方も少し軽くなったよ、と。脳が体を支配するのではなく、体が脳を育てるという最新の脳科学の知見によれば、髪が軽くなることによって、気持ちもまた軽くなるにちがいありません。
息止めるその十秒の涼しさよ 中嶋飛鳥
「息止める」から始まりますので、一瞬ドキッとしますが、「十秒」に少しほっとします。そして、この十秒はどんな十秒だろうかと想像したくなります。水の中に入って息を止めたのでしょうか。呼吸を整えるために、少し息を溜めたのでしょうか。何れにしても、「涼しさよ」という押さえ方が爽やかです。そのためでしょうか、息をしていること、こうして生きていることを肯定された気がします。(8月7日掲載句)
*大阪教育大柏原キャンパスから空を。
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