香天集8月28日 岡田耕治 選
玉記 玉
梅雨闇を描く百色の鉛筆
太陽を溜めつつ空蝉となるよ
八月の水が震えている写真
流灯のあとひとすじの風生まる
加地弘子
蟷螂の子真っ新の鎌ふり上ぐ
八月の胡瓜しきりに曲がりけり
反撃に転じておりぬ鉄砲百合
妻母姥粗方すませ目高飼う
藤川美佐子
夏空を沈めて水位さがりけり
黄金虫はさみの音の佳かりけり
空中を散布しており晩夏光
朝顔のひたすらなりし時空かな
釜田きよ子
蜘蛛の糸朝一番の光にて
朝顔をたくさん咲かせ人見知り
閻魔様と視線を合わす昼寝覚
空蝉やふいに巻爪痛くなる
大杉 衛
ほんとうの扇の風や左から
西日射す凾の中から超合金
白絣風立ち騒ぐ橋の上
秋風をはっきりと見る視力かな
釜田きよ子
空蝉に寿限無と名づけ解放す
日本が浮く炎昼のフライパン
八月は骨密度から痩せていく
大花野アダムとイブが来ておりぬ
今川靜香
蜻蛉とぶ風の高さを測るごと
校舎よりチャイム始まり青田風
違えたるままに進みて森涼し
虫干しや母の形見の帯軽し
北川柊斗
八月の廊下よ奥にまだなにか
八月を揺すらば重き鐘の音
八月のところどころが痛みだす
八月や渇ききつたる瓶の底
古澤かおる
乾物の戻る速さよ夏の水
アクセルが滴りを抜け父祖の山
斑猫や生国に居る昼の飯
字の下手を父に託け水ようかん
立花カズ子
朝から流れの早しほととぎす
花菖蒲まよい鋏は紫に
この川の流れ蛍の里になる
万緑や峠を越えし日の遠く
永田 文
雲の峰峡の青空使いきり
夏の風木綿の似合う嫁と居て
大勢が風と戯れ青芒
水音の中まで昏れず牛蛙
立花カズ子
漁火のゆらぐ水面や夏の月
広々と風吹き渡り夏あかね
夏蝶や大樹の影へ風こぼす
ダンスパーティ変身の夏衣
西嶋豊子
片陰に居着き野良猫やせ細る
羽抜鳥犬に追われて来たりけり
この窓に鳴きつづけたる蝉の命
炎天を帰るカメラを熱くして
村上青女
やせ犬の尾を垂らし行く炎天下
静けさを破ってしまう朝の蝉
探し物やっと見つけて夏の朝
波形みな自在の模様プールの底
西嶋豊子
ひまわりがおいでおいでと五万本
暑き日の一銭五厘の命なり
打水の涼しき道へ頭下ぐ
夏風邪や粥をすすれる一人の日
*8月27日、「香天」上六句会を行ったホテルアウィーナ大阪の玄関です。
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