玉記 玉(10月)
水掻きの跡秋水のあとであり
座りたい石が水辺に小鳥来る
秋の日をぺたぺた金の鱗かな
火灯りてメタセコイアよ寒かろう
北川柊斗
地の力空の力や冬木立
白々と枯れゆく紫式部の実
くしゃみして思考リセットしておりぬ
抜きたれば踏ん張る力蕪にも
藤川美佐子
遠くまで平行にして柳散る
竹の竿二つに割れば秋の声
ひつじ田に宅地造成始まりぬ
静かなる香の中に菊枯れてゆく
立花カズ子 (10月)
落日の風あたらしく秋あかね
十六夜若き男子の北枕
夕映えのほのかに香り稲の花
海風のぼりて秋の千枚田
立花カズ子 (11月)
紅葉の渓から細き雨の降る
寺号受け継ぎ四百年の銀杏黄葉
錦秋や水の流れにつきそいぬ
残菊の白の乾きてなお匂う
〈選後随想〉
火灯りてメタセコイアよ寒かろう 玉記 玉
メタセコイアは、旺盛な緑をつけて春から秋を突っ立っていますが、冬になると急に緑を失います。火灯し頃、木と枝だけになってしまったメタセコイアに、一層の寒さを感じます。「寒かろう」という呼びかけは、私たちに、そして、玉さん自身に返ってゆく温もりを帯びています。
くしゃみして思考リセットしておりぬ 北川柊斗
「咳をしても一人」と書いたのは尾崎放哉ですが、柊斗さんはくしゃみすることによって思考をリセットしました。長い俳句の歴史の中では、「くしゃみ」の代表句になるかも知れないと、選句していて感じました。大きなくしゃみの後は、それ以前とは違った自分になっているような感じがします。それを、美事に一句にしてくれました。
*大阪教育大学天王寺キャンパスの銀杏落葉。
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