2017年9月3日日曜日

香天集9月3日 森谷一成、中嶋飛鳥、渡邊美保ほか


香天集9月3日 岡田耕治 選

森谷一成
炙らるるごとく寝返る暑さかな
幼子の笑いを咲う百日紅
暮をまつ香具師(てきや)少女のスマートフォン
音盤に針を沈める敗戦日

中嶋飛鳥
行く夏の呟き洩らすジンジャーエール
八月の語りて永久の問となし
人形の顔の雀斑秋暑き
月光のかたむいているイージス艦

渡邉美保
耳栓となるかもしれず落花生
鉦叩居間に父母なき夕べかな
乱反射して八月の時計台
木漏れ日をすり抜けてゆく黒揚羽

三好つや子
競馬紙のまじるや桃の袋掛け
八月がよこたわりたる 水屋
短夜の獏の尾として栞紐
水平線を背に持つ魚九月来る

辻井こうめ
三対の脚を合わせて蝉の死す
次次と抱っこしていく盆の家
始めからフルスロットル草刈機
しがみつく葉裏を揺らし蝉の殻

浅海紀代子
意地通す涼しき眼ありにけり
身の火照り風に預けて夕ひぐらし
子の背に返すひとこと盆の月
夕野分捨て井戸今も野の端に

坂原 梢
口辛し土用の梅を干し終えて
ぶんぶんと法話の中を蚊が通る
無花果の谷間によせて甘い汁
伏す床に心を立てて梅雨最中

安部礼子
潜水のプリズムとなる夏の果て
悲しみを無にするために星流る
缶けりの鬼の終はらず魂祭
たくさんの余白を残す盆の月

羽畑貫治
急降下追いつ追われつ秋の蝶
秋澄むや運転免許返納す
雁渡し老老介護の救急車
蛇二つ絡まり合いて穴に入る

村上青女
いくつもの空蝉にして木の枝に
こおろぎのソロシンガーは厨土間
子どもらの電話相談夏休み
空映す玻璃拭き朝の嵐過ぐ

越智小泉
桃を剥く男指先やさしくす
水茄子や大地の恵み色に出て
雲の峰すぐに体温上りけり
花火果つ胸に溜りし息を吐く

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