香天集10月8日 岡田耕治 選
中村静子
缶蹴りの缶立て釣瓶落しかな
後の月フルートの音身に残り
遮断機が降り草の実の弾けたる
潮騒につまずいている鵯の声
藤川美佐子
枇杷すする一人暮しのくぎりつけ
水光る蛙の満ちる夕まぐれ
紫陽花の寺の石段いつもぬれ
曙と朝とのさかい露しぐれ
坂原 梢
雲海の富士に声あげ飛行中
涼新た小さき旅の船着き場
大口をあけてしずめる秋の鯉
スタンドの敗者勝者のかき氷
中濱信子
病院の窓一面の鰯雲
点滴の音なき音も秋の声
血管をさぐるナースの指ひややか
退院す机の上の夏帽子
浅海紀代子
小鳥来て空の一隅曇りなく
倚り懸れば押し戻される黍の風
猫と我に夜長の時計鳴りにけり
洗う物引っぱり出して天高し
村上青女
稲刈りの背に広がり汗の地図
法師蝉鳴き声のふと止まりたる
さわさわと風にまたがり秋の来ぬ
掲げしは九条の旗天高し
羽畑貫治
空蝉のようねと妻ののたまわく
湯加減を気にしていたり百日紅
終活を歩け歩けと小鳥来る
ピン球のロングシュートが秋抉る
西嶋豊子
あの人もこの人も夢夜長かな
台風圏畠仕事の鍬忘れ
赤紙の父と線香花火かな
いつまでも父と二人の庭花火
*大阪府阪南市サラダホールにて。
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