香天集11月5日 岡田耕治 選
玉記 玉
ふたつ見えたり十月の旗手の耳
小鳥来る閉じれば空となるカバー
台風の過ぎて行きたる漢数字
紅葉山ゆらりゆらりと命足し
中嶋飛鳥
女という触込みのあり盗人萩
盗人萩ちよっとそこまで参ります
一人なり盗人萩を連れ帰る
勢力を自在に拡げ盗人萩
渡邉美保
秋の暮チューブ引き出す自転車屋
立冬の塩壺の塩光りけり
酒屋より貰ふ酒粕小六月
吾のみに聞こゆる歌を冬はじめ
森谷一成
天高し高速道の腹這いに
陵の祖(おや)にならんと木の実落つ
もののけの眼になり月のうろこ雲
背走す軌条の霧の中へ中へ
釜田きよ子
フラミンゴコスモスよりもしなやかに
機嫌良く一人遊びの猫じゃらし
月光を溜めこんでありラクダの背
ロボットが掃除を済ませ秋の暮
辻井こうめ
マグリットの大空にして鵙猛る
木犀や身体の奥の奥にまで
夢のことばかり夢見る案山子かな
青色の蛇の目を揺らし新走
藤川美佐子
ちちははの影が来ている燕子花
辣韮を買うため始発バスに乗る
更衣ただ街に行くだけにして
ソーダ水姉妹三人暮れのこる
坂原 梢
遠ざかる夢の一つと秋霖雨
村芝居舞台の袖の通実裂け
鈴虫や声の記憶が蘇り
ふるさとの水が聞こえる秋桜
浅海紀代子
カルストや風の芒に紛れゆき
擦れ違う時に目の合い秋日傘
新米をたまわり猫背見送りぬ
躓いてもっと秋思の早くなる
長谷川洋子
磨針の峠や歯朶を傘に入れ
碧き栗すずなりになり友を呼ぶ
ワンピースの笑窪よ後の更衣
前垂れに襷を掛けて冬に入る
村上青女
石段に槙の実数多山の寺
うろこ持つ大河の空を船島へ
山崩す太陽発電秋の風
時重ね色重ねゆく酔芙蓉
*福島県只見町のダム湖にて。
0 件のコメント:
コメントを投稿