香天集9月2日 岡田耕治選
玉記玉
敗戦忌向かいの席に口ふたつ
葛きりのはじめまぼろし終わりまぼろし
初秋の水を一周しておはよ
シャガールの小鳥加速度的に青
森谷一成
旱星賭客が片を付けに来る
地(つち)灼けて腸(はら)に経口補水液
炎毒にふらつく恋の奴かな
ヒロシマの絵のまえ石に戻りたき
石井 冴
虫取網大きく風を掬うこと
立ったまま無花果すぐに食べ終る
無花果割る末の弟近くにし
無花果のひとりの時をべたべたと
渡邉美保
水底のご飯粒へもキャンプの火
立秋の路地抜けてまた路地に入り
復刊の和紙の手触り月見草
秋風に吹かるるだけの旅の駅
西本君代
大夕焼見知らぬ人と甲板に
やわらかく茗荷の花を刻みおり
秋茜小さな鳥のホバリング
秋の日の今は静かな保育園
浅海紀代子(7月)
紛れも無き今を晒して大西日
夜の秋杖を突く音身に返り
看護師を待つ蝉の声聞きながら
見舞客ぬっと夏日を連れてくる
浅海紀代子(8月)
痛みより醒めゆく手足遠ひぐらし
ひぐらしや作業着のまま会いに来る
病窓の雲追うばかり台風裡
芙蓉咲く今は声無き父母の家
釜田きよ子
夏座敷渦潮という和菓子置き
食卓に箸をそろえる終戦日
バーゲンに急いでおりぬ蟻の列
夏草や水の匂いを濃ゆくする
坂原梢(8月)
摂氏いま三十九度に水を打つ
魚屋の茄子の浅漬完売す
少年に戻りし祖父の甲虫
脳幹をきゅんと開けりかき氷
中濱信子
空家から解かれてゆく百日紅
凌霄花人に短き導火線
まっすぐな道の恐ろし入道雲
夏終わる振り子時計の進みがち
坂原梢(7月)
ワクチンを打つ養殖の鯛の夏
蜊蛄が爪立てて行く暴風裡
氾濫の泥にまみれて夏木立
川蜻蛉のせて笹舟流れつく
浅海紀代子(6月)
白南風や旅の鞄を遠くして
ひとときを「古事記」に遊ぶ遠蛙
わたくしの位置を確かめ夏至日影
日焼せし手話に大きく応える目
古澤かおる
夕立やこんにゃくに味しみていく
栗の花遠くに見えるマリア像
昨日より色褪せている金魚かな
打ち水や弟はまた泣かされて
越智小泉
朝礼の短き訓辞カンナ燃ゆ
盆菓子や触れねば彩のあざやかに
黙祷の静寂汗の甲子園
絵日記の最後の素材地蔵盆
*新宿区大久保小学校、小泉八雲の地にて。
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