2019年3月3日日曜日

香天集3月3日 石井冴、渡邉美保、森谷一成、柴田亨ほか

香天集3月3日 岡田耕治 選

石井 冴
もち花の先のももいろから脱皮
おとうとの一分間を風花す
急がずに女に戻る凍豆腐
女手に菠薐草が育ち過ぎる

渡邉美保
白椿に錆回りくる日向かな
てのひらに小惑星の石あたたか
芽吹くものの先へ先へと光の輪
卒業子ハイタッチして散在す

森谷一成
ふるさとの堤に匂う蕪村の忌
拙なけれど澱河言祝ぐ初音かな
       澱河=淀川
悴みて気根の精のごとくあり
鏤むやプラスチックの涸川原

柴田 亨
風花や雀は天を見つめおり
つぼみつぼみぽつぽつぽつと雨になる
春ごもりおのれの闇とにらめっこ
切子酒簡単なこと先にして

釜田きよ子
飛ぶことを考えている寒卵
海の記憶ありて魚の煮凝りぬ
福寿草家族写真のごと生えし
水仙の唄えばボーイソプラノに

中濱信子
四捨五入して九十の冬帽子
龍の玉人には見せぬ我が手相
霜柱踏んで悪事を太らせる
冬ぬくし片側続く醤油蔵

北川柊斗
しやりしやりと薄氷小さき靴の下
ものの芽のそれぞれにある色目かな
雨音のしたたかなりし二月尽
トースターとびだすパンや今朝の春

安部礼子
天井の水陽炎や死者の啼く
ニューロンの宇宙に届きシャボン玉
薄氷水のあがくを美しく
豆撒きに鉢合わせたるいかり顔

木村博昭
春を待つピースボートのビラを貼り
遠山の縹色なる二月かな
大試験控え十五の誕生日
春の雷シュークリームの皮を割る

中嶋紀代子
春光のアジア行き交うメトロかな
春日向皺に埋もれし手相観せ
気の弱くなりたる友に晩白柚
空蝉の生き続けたる老梅よ

北村和美。
早春のうしろ姿の学ランよ
春寒しふぐ提灯のゆれる音
のり巻きの玉子が恵方向いてあり
西行と同じ命日迎えけり

羽畑貫治
どこまでも月の出てあり春疾風
風車からから過疎の邪気払う
痰からむ喉の不具合春日向
平成を豊かに送り雛飾り

越智小泉
年の豆昭和平成その後も
盆梅のここは寡黙となるところ
春泥の乾いては散る轍かな
七転び八起きの童青き踏む


*奈良県教育センターにて。

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