谷川すみれ
虫の音のリズムに合わぬ歩幅かな
果てのない黒い電線鳥渡る
生きものの羽音駆けぬけ十三夜
ねこじゃらし行けば行くほど遠くなる
石井 冴
骸骨はいつも笑ってサンバイザー
捕虫網備えひとりで住んでいる
シャッターの半分開く西瓜買う
紫陽花が隠してしまう腕時計
加地弘子
据わりよき石を見つけて著莪の花
両方の道を塞がれ青芒
蛍籠橋渡る時すこし泣き
夕立や焼き上がるパンの冷めぬ間の
澤本祐子
ひとひらのあと花びらのとめどなき
ミステリーのページを散らし薫る風
白牡丹咲き満つ色のあふれけり
夏燕子の手にわたる母子手帳
木村博昭
植えられてまだ鎮まらぬ稲の苗
時の日の水の流れを流れゆく
かたつむり別の時間のなかにあり
閑かなる耳鼻咽喉科梅雨に入る
橋爪隆子
新緑をかき分けてゆく舳先かな
万緑を傾けてゆくハーレーよ
まっ白な風と出会いぬ更衣
原色の水を弾きて夏野菜
正木かおる
囲まれて町に最後の青田かな
点滴を四時まで聞いてさみだるる
病棟や茄子の煮物の横たわり
帰らねばやもり今宵も来るだろう
永田 文
葭簀ごしほつほつ夕の小商い
御手洗の上にちこんと雨蛙
夕の風ゆらぐ時あり姫女苑
異次元かそれとも夢か昼寝覚
羽畑貫治
教え子も八十路を超えて風涼し
山坂を越えて来たりし夏の月
点滴に救われてあり土用波
地蔵盆卒寿の賀詞を拝しけり
*和歌山市加太にて。
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