2019年10月26日土曜日

香天集鑑賞 前塚かいちさん、橋爪隆子さんの作品

父の日の捨ててはならぬ蔵書かな 前塚かいち
 父の蔵書ではなく、父の日の蔵書というところが様々に読みを広げてくれます。蔵書は父のものかも、自分のものかも知れません。決して捨ててはならない蔵書が身近にある、そんな暮らしぶりがうかがえる一句です。捨ててはならぬ本とともに、この人生を閉じていくのだと。

水馬流れに乗りて流れざる 橋爪隆子

 あめんぼうは水に流されるかと思うと、また元の位置に静かに戻っています。 気持ち良さそうに水に浮かぶあめんぼうは、どうもこの位置が好きなようです。私たちもまた時代の流れの中にあって、その流れに乗っているのですが、どこかにこのあめんぼうのような、流されまいとする心の働きがあります。流されてしまいそうになっても、このあめんぼうの軽やかさで元に戻ればいいのだと、そんなことを教えてくれる一句です。
*岬町多奈川駅にて。

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