2020年3月1日日曜日

香天集3月1日 中嶋紀代子、森谷一成、西本君代ほか

香天集3月1日 岡田耕治選

中嶋紀代子
知らぬ間に恋人とされ杉の花
生きものに縄張りのあり春しぐれ
家中の鏡を磨く春日影
菠薐草根っこの赤を選びけり

森谷一成
アフガンの微笑みとどめ冬銀河
墨筆の瑞籬を出で冬ぬくし
大寒のものと思えぬ葉っぱかな
背に腹に左に右に鰤起し

西本君代
馴らされるマスクをつける憂鬱に
春きざす十四歳の足首に
紛れ込む小石カチリと春寒し
梅咲いてあともう少しもう少し

夏 礼子
誰からか謎の賀状の届きたる
今生の別れと仰ぎ冬三日月
ポインセチア母に似てきし姉といて
万歳をして手袋の干されけり

釜田きよ子
血管を叩いても出ぬ二月尽
白梅の横に紅梅ほっとする
真っ先に雨に濡れゆき沈丁花
啓蟄の抜かねばならぬ歯牙のあり

前塚かいち
絵手紙を展くギャラリー日脚伸ぶ
木登りをみせたる猫の日脚伸ぶ
春兆すゴッホの気持ち塗り絵して
春の泥運転免許講習の

中濱信子
福寿草送り出てなお立ち話す
節分の鬼の来ぬうちまず一献
冬の雷二人の静居際立ちし
冬ぬくし娘とぶらり町歩く

西本君代
冬来るドームの中にある残響
冬の磯黒靴を履く足の骨
極月に生まれふぐりの青白く
初芝居歌舞伎役者が客席に

安部礼子
約束を果たせずにいて春の川
梅の花短気と人は言うけれど
霊たちが塊になる春疾風
春の宵若き男は酢の匂い

吉丸房江
春が来るベランダの戸をさっと開け
やぶ椿かくれて枝をゆするもの
祝いけり八十五度の雑煮椀
スピードの次第に上がり風邪流行る
*東京、文部科学省にて。

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