2020年3月8日日曜日

香天集3月8日 三好つや子、渡邊美保、浅海紀代子ほか

香天集3月8日 岡田耕治 選

三好つや子
遺言のなきが遺言冬すみれ
春の蝿動体視力の先より来
風光るロートレックの料理本
鯛の目のぬきさしならぬ潮汁

渡邊美保
春光に確かめてゐる処方箋
山焼きのはじめに酒をそそぎけり
まづ火縄回し山焼き始まりぬ
梅の夜万年筆にインク足し

浅海紀代子
春隣長寿体操声揃え
年の豆途中を略すことにする
花座敷空と溶け合う海が見え
青空と花と私の一日よ

橋爪隆子
コーヒーの香りを乱し春の風
盆栽展出て一本の野梅かな
立つ春を呑み込んでいる鯉の口
明ける暗さ暮れる明るさ水温む

澤本祐子
空風を来て踏切にさらされる
着ぐるみの鬼節分の豆を食ぶ
盆梅のほぐるる先の光りあり
おしゃべりの真中にして餅を焼く

宮下揺子
柊の花軒借りて雑貨売る
すぐ溶ける初雪なれど両の手に
種浸し見ている孫の腕まくり
啓蟄や二つの住所使い分け

朝岡洋子
のったりと山羊啼く先の梅林
青き踏む左右異なる足運び
雨となる万両の赤重くして
灯台をカートミラーに風光る

河野宗子(1月)
侘助や黄泉の白さをまといけり
新年会スマートフォンはみんな赤
寒木瓜の朱色きわだつ遊歩かな
観覧車の青を廻して夕時雨

北村和美
彼と来た哲学の道冴返る
サークルの呼び込みは春カルメ焼き
春炬燵七対三の柿の種
ぬかるみにはっと息のむ春の月

河野宗子(2月)
春浅し黄のハンカチを軒先に
眼の痛みこらえて出合うピラカンサ
立春の空を見上げてからごはん
術後の目洗う建国記念の日

羽畑貫治
重ね着の上に重ね着コロナ菌
突然の脳梗塞や鳥交る
卒寿とて肉食ばかり目借時
新肺炎国境を越す蜃気楼

岡田ヨシ子
老眼で学びしノート春来たる
おのが歳数えて眠る余寒かな
蕗の芽やレシピを脳にしまい置き
シルバーカー椿が上と下に咲く
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

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