香天集5月24日 岡田耕治 選
石井 冴
春眠の棚のゲバラを立たせけり
曽祖父の下駄の音来る蓬もち
芸をせぬ麒麟の舌のうららかに
野遊びが流れて来たり水時計
安田中彦
陽炎が少女となりて急ぎをり
水馬水面に時間とどまれり
鯉のぼり空に攫はれたくもあり
五月来る本の崩るる机上にも
渡邊美保
新緑へ吊橋渡り影法師
葉桜や舟は暗渠に吸ひこまれ
花巻の青嵐かくや賢治読む
藤の花恋文ならば巻紙で
三好広一郎
肉体は灰にはならず春の水
春の青無意識のまま枯れている
たっぷりと吸わせてこの子柏餅
脳の液状化春は別人に
谷川すみれ
扇風機新たな遠き風を呼ぶ
のうぜんのはるかにのぼりつめた空
水中花耳のように聞いている
このままでいいとあじさい黄土色
柴田 亨
うぐいすの声にしじまのあるみどり
不自由を自由に変えて百物語
懐かしき人を思えば春の星
ホトトギスいま曙を支配せり
木村博昭
エンジンを噴かして過ぎる新樹路
煌めいて五月の空を飛んでいる
鯉幟こどもの居ない村里に
よく喋るいちごの並ぶ白磁かな
永田 文
青空のうかうか四月終りけり
鶯や読経に和していることも
園児なき園よパンジー笑いたる
歩きたし五月の風とハミングと
*岬町にて。
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