2020年7月26日日曜日

香天集7月26日 谷川すみれ、安田中彦、柴田亨ほか

香天集7月26日 岡田耕治 選

谷川すみれ
雨を呼ぶ枯れつくしたる曼珠沙華
昼の月留守番電話点滅す
病む者の桜紅葉に染まりゆく
怒りの熱さ露草の眩しさ

安田中彦
立ち眩みして水無月の青の中
骨格は螺子にてゆるぶ揚羽蝶
幾たびも空蝉落つる頭の真中
草上の液体として蛇走る

柴田 亨
くちなしの白さに人を想いけり 
会う人の力によりて生きる夏 
夢の雨この世の雨と降り止まず 
おさなごのただいちにんの合掌す

三好広一郎
空蝉や泥水引いて泥残る
売った家その後気になる燕の子
夏鶯青いインクの遺言状
陵墓の堀夏蝶の蒸発す

橋本惠美子
万緑や昨日も今日も独り占め
更衣こんなところに母子手帳
張り込みの視線の隙を蝶の羽化
ソーダ水右眼は吾子を追いかける

中嶋紀代子
一輪の夕菅の待つ月夜かな
金髪に鼻ピアスして夏休
慟哭す荒梅雨の枝揺すりあげ
一度だけ会うことになる縞蛇よ

木村博昭
一羽二羽三羽四羽五羽軽鳧の子よ
蛍火やテッちゃんが居てヨシが居た
空っぽの郵便受の梅雨長し
一日を裸足で過ごす気儘かな

前塚かいち 
水羊羹「野ざらし紀行」辿りゆく
バナナ食う「バナナボート」を口ずさみ
蝸牛少年の日を持ち帰り
父の日の父の銃声空を撃つ

河野宗子
走り梅雨クライミングの足の向き
ほっぺたにくぼみのありて金魚玉
紫陽花や退院の日がまた変わり
七夕竹星の切手の便り受く

北村和美
向日葵や垂直とびの手が見えて
後ろデコカプカプ笑う天瓜粉
炎天下筋肉痛の顔のあり
頬杖や退屈すぎてラムネ飲む

古澤かおる
梅雨深し膨らんでいる紙の物
梅雨夕焼三つの村を守る山
細き柄が飴色になり渋団扇
夏負けの絞り過ぎたるマヨネーズ

正木かおる
長雨にノウゼンカズラ空の底
彗星を愛するひとの夏だより
母と祖母西瓜をひとつ仲立ちに
缶ビール一打中村晃かな
*岬町深日にて。

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