香天集7月4日 岡田耕治 選
久堀博美
滴りや誰かが生まれ誰か逝く
かりそめの家を出てゆく黄金虫
山桃の実で埋まりし路上かな
日日草だれも知らない百年後
谷川すみれ
これからは裸の月日大銀杏
終戦日正午は我の影の中
黒黒と秋の夕焼卵割る
たましいは鬼のかたわら秋刀魚焼く
森谷一成
春燈し辞書に「切片淫乱症」
フェティシズムの翻訳
虞美人草その曲直のこもごもに
移し絵の宙逆さまに新樹光
夏つばめ風に謀叛を繰り返し
夏 礼子
花は実に姉妹そろってよく笑い
紀の国へ一輌電車花うつぎ
マスク取り緑雨の香り吸い込みぬ
時という流れを低く梅雨の蝶
辻井こうめ
しなやかに風を躱さん花あふち
風薫る実習生のさやかさん
青葉風享けては次の波待たん
赤色の四駆草刈る大草原
前塚かいち
くちなしの香りの残る鋏かな
以前より距離を保てり夏燕
夏草や故郷の家誰も来ず
家守出る一瞬のあと眠くなる
中濱信子
週一度の買物の嵩梅雨晴間
夕茜植田に音の一つなく
蜘蛛の囲や紙飛行機の止まったまま
青鬼灯小さな嘘が太りゆく
宮下揺子
少年の嘘につきあうしゃぼん玉
北斎の男浪女浪や走り梅雨
麦の秋きっと繋がる糸でんわ
黙読の子の口尖る雲の峰
安部礼子
はじまりはひとりでいたり蛇苺
酒中花借りた時間の中に咲く
褪せてゆく言葉の中の辱暑かな
待てぬ者増やしゆくなり大南風
嶋田 静
目高の子ピンピン瓶に生まれけり
水無月のポトスの葉先水の球
紫陽花の毬に妖精現われる
戸締まりを止めて見ており梅雨夕焼
河野宗子
ほめられて走り出す子や夏の空
桜桃忌肋骨出して雲流る
姫女苑測量の手をまっすぐに
ムーミンが顔を出したる蔦かずら
吉丸房江
庭石のあるがままにて梅雨の雨
捩花や葉先に小さき露をのせ
新しき急須傾け新茶淹れる
茄子の花親の訓えの浮かびけり
岡田ヨシ子
蚊帳の中不眠の朝の始まりぬ
紫陽花の最も小をトイレへと
ワクチンの接種を控え暑くなる
冷蔵庫賞味期限を照らしけり
中辻武男
満開の風蘭が客呼び止める
届きたる里の蜜柑にある笑顔
大好きな野球でほぐす夏余生
藤一枝天上の師とながめたる
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
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