2021年9月19日日曜日

香天集9月19日 石井冴、安田中彦、三好広一郎ほか

香天集9月19日 岡田耕治 選

石井 冴
裏側から表へ抜けて蚊遣香
ポケットがふくらむばかり秋の空  
信号を信じていたり神の鹿
虫集く男に残す腕時計

安田中彦
ふいに立つ子規忌の風や喉仏
龍淵に潜む赤子の腹大事
衰ふる地球に案山子深く刺す
かなしみは九月の朝のやうにくる

三好広一郎
人知れず月光を吐く摩崖仏
滅びゆく朝の調べや葛の花
名画座へ行くまでの道夜這星
空を容れず人を容れずプール死す

加地弘子
子らによく聞こえ櫟の実の降れり
天上の風の光りて竹の春
バス通う道なりに行く竹の春
ブライダルベールを這わせ草の花

木村博昭
底紅や隣家に若き声戻り
車前草の花踏まれては立ち上がり
戒厳下アバターたちの月の宴
白秋のわが骨格に出合いけり

神谷曜子
秋日和飛行機雲を子に教え
水蜜桃病みし記憶のよみがえり
一人かと聞く背高泡立草
二学期の固き椅子なり雲速し

宮下揺子
体温を測る習慣百日紅
老人の気骨八月十五日
風に沿う日々ののうぜんかずらかな
川に沿う足のもたつき半夏雨

永田 文
一群となりてすがしき韮の花
爽やかや先生と呼ぶ声のして
近づくや茗荷の花のそこここに
四つ切で売られ冬瓜まだ大き
*岬町小島にて。

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