香天集10月3日 岡田耕治 選
中濱信子
あるなしの風の集まり秋桜
百日紅開け放たれて誰も居ず
どちらかが不機嫌になる吾亦紅
残りたる薬より飲む秋暑かな
夏 礼子
赤のままそのまま風に遊びおり
爽やかや顔じゅう口にして話し
腑に落ちぬ話のつづき鰯雲
秋夕焼噂ばなしの濃くなりぬ
森谷一成
夕凪に尖る風力発電帯
月涼し水木しげるの眼の底に
濁流の終てを争い秋の海
竹の根の円かに秋の出水かな
久堀博美
葛の花いま泣いた子が笑い出す
掛けている眼鏡を探す良夜かな
赤とんぼ葉先のうぶ毛濡らしけり
のっけから胡坐となりし新酒かな
前塚かいち
帰省するあと百年は住める家
絵手紙や無花果の色定まらぬ
秋の声合唱曲に重なりぬ
つゆ草の藍を挿したるグラスかな
楽沙千子
護摩壇山秋天を欲しいまま
客のあと良夜の風を通しけり
少年の暑さもろとも秘密基地
お手玉を体が覚え秋桜
小﨑ひろ子
リンドウの何処の空をふふみたる
爪先を空に伸ばして彼岸花
宣言終えなお静かなる秋祭
神無月神という字を大きくし
松田和子
虫の音や湯船の中のひとときよ
草蜉蝣異国から来し灯かな
オカリナと琴聴きながら月を待つ
突き上げる鞘の声する木賊かな
河野宗子
百日紅輪廻転生くり返す
語らいは銘菓店まで秋日傘
洗濯物たたみて今日の秋たたむ
名を知らぬ草花ひかる白露かな
田中仁美
飛び跳ねて行けりバッタの後ろ足
自転車を立ちてこぎたる夕立雲
昇進す大きな箱の蘭届き
雑草に埋もれてしまい秋薔薇
吉丸房江
日が差せば水はきらめく秋の風
白萩に黄色の蝶のもつれ合い
いつもより柿の実多き空のあり
コロナ禍の梅酒一瓶つつがなし
垣内孝雄
母と子のつながる手と手花野径
秋風のなづり水面の水の皺
秋の風赤き絵皿を揃へけり
籠り居の外には何時も秋の風
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