香天集11月28日 岡田耕治 選
石井 冴
敗荷の水に浸かるも遊ばんと
顔を見るため綿虫に付いてゆく
今生の我に近づく大根焚
彼の世から葉付大根提げてくる
玉記玉
掌に祈る形のラフランス
土曜日は残業かしら桃かしら
手袋の片方のなき逢瀬かな
寵愛の過ぎたる高野豆腐かな
渡邉美保
日向ぼここの世の足が浮いてゐる
白鳥の首の直角さみしいか
火種抱くことも勤労感謝の日
寒鴉ひとは火を焚くこと忘れ
谷川すみれ
惜年の水平線の膜発光
布団から体の一部干しにけり
白菜をざっくり私は女なり
火をつける頭の中の枯落葉
中嶋飛鳥
茶柱をつまんで捨てて冬隣
日曜のパズルを埋める黄落期
短日の炎を育て手紙焼く
ミサンガの紐の捩れてふくと汁
加地弘子
身綺麗に育っておりぬ唐辛子
葛の花一人が好きな人がいる
尾花飛ぶ日射しの中の万華鏡
ここと決め落ちて三年実万両
辻井こうめ
晩稲刈る国会中継のラジオ
ひょっとこの顔してゐたり柘榴の実
裸木や全面広告ほぼ余白
やはらかに林縁揺らす野菊かな
砂山恵子
セーターの毛玉ばかりをとる授業
冬来る京都錦の香り連れ
いい挙式だつた柊咲いていた
着ぶくれて明日廃線のバスを待つ
神谷曜子
駄菓子屋の猫はまんまる秋日影
公園にはしゃぐ老人神無月
覗きたる昼の裏側大花野
曇り日の人恋う形シクラメン
安部礼子
惜しむ秋酌されること拒みいて
釣瓶落し子を諦める猫の目に
二輪車を降り匂いなき片時雨
カメラに任せ湖の寒さかな
藪内静枝
秋時雨手を振り連呼選挙カー
剪定や木犀のこし終りとす
コキアの赤タオル一枚干されけり
牛筋のひとつを加えおでん種
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
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