香天集2月27日 岡田耕治 選
谷川すみれ
立春の無限へマスク外しけり
三人目妊っている野焼かな
狂わねばミューズに会えぬ花吹雪
正体の現れている薄氷
石井 冴
白鳥の夢はグレイで透明で
こだわりを持つアボカドの大きさ
鳥よりも光が遅し春障子
春の山杖になる棒潜みたり
夏 礼子
ふるさとやどこにも春が生まれたる
赤い靴選ぶそれほど寒くなく
文字として固まっている冬薔薇
薄氷の閉じこめている風の声
辻井こうめ
折れ針はフイルムケースに針供養
二日灸母は三里に願ひ込め
恵方巻をさなき顔を一杯に
雪割草この日の為に鍛錬す
釜田きよ子
発熱を恐れておりし雪達磨
初蝶は発光体として舞えり
夢で会う母なり今も芹を摘む
肩甲骨開く体操水温む
木村博昭
白息のぶつかり合うて朝稽古
指先の異物のように冷たかり
頸椎を前後左右に寒の明け
漕ぐことをまだ知らぬ子がふらここに
安部礼子
愛想なき理由など聞かぬ孕猫
猫の恋そっと私に触れてみる
蝋のごと凝る懐かしき曲の春
春光の充ちて鳴らない鈴となる
嶋田 静
鮮やかに括られてあり寒の菊
冬日向川から橋をくぐりけり
寒月や仏の光となりて射る
春一番今日の心をノックする
河野宗子
空高し野焼のあとの土手登り
ECT カードを捜し春隣
セーターの形見に袖を通しけり
頬杖をついてひと日の春すぎる
牧内登志雄
シーレ描く薄き乳房よ春日影
春野にも果てあると知る夕べかな
君が胸ひらけば白き夜香蘭
三角に絡み合ひたる春の猫
田中仁美
自らを雪だるまとし朝はじまる
つるりんと湯豆腐食す一人鍋
体験を重ねる皺に春きざす
大試験祈りて託す腕時計
永田 文
枝先に雀の遊び梅一輪
語部や淡路島なる野水仙
如月や草木膨らむ雨となる
シクラメン和名は書かず店頭へ
古澤かおる
雄たけびは絶対王者冴え返る
春きざす一斤半の生食パン
日に三度届く宅配ひなあられ
おぼろ月保湿ティッシュが売り切れる
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
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