香天集3月6日 岡田耕治 選
玉記 玉
読みかけは読みかけのまま春の川
展開図どおりに剥けし夏蜜柑
焼野原水と男が来ていたる
ぶらんこに立ち私へと出発す
森谷一成
おでん酒うそをついたらその通り
広告の「全身脱毛」寒の明け
一つ目を究めていたる犬ふぐり
旋回の肚のあたりに春来る
渡邉美保
早春や無口な父と海を見に
山笑ふ大福餅の断面図
白椿咲いて進路の定まりぬ
棒きれでつつく穴ぼこ春浅し
中嶋飛鳥
梅の花頭を下げて行交えり
きさらぎの下段九条第二項
冴返る星曼荼羅に正座して
蜂遊ぶ閂の棒わがものに
浅海紀代子
風花や訣れは不意に後ろから
暗闇の私の鬼に豆を打つ
ブランコにさびしい風が乗っている
春の窓猫に横取りされてあり
宮下揺子
「て」と読める石を拾いし冬の川
逆上がり出来ぬ子の尻冬の空
梅ひらく蔓延防止措置の中
ひとつとて同じもの無き春の雪
春田真理子
びっしょりの母よさくらの世へゆくか
からだじゅう透きとおりゆく花吹雪
嵐過ぎ桜の棺を送り出す
亡き母と桜並木を霊柩車
吉丸房江
つづく咳コロナ検査は陰性に
日面の球根ひょいと伸びいたり
寒き夜母さんの歌口ずさみ
世界地図広げて春を祈りけり
北村和美
雪解水かけがえのないデコの傷
春の月メビウスの輪の赤照らし
はなまるの連絡帳に春の風
春ショールトリコロールを選びけり
垣内孝雄
石鹸玉兄と妹が吹き比べ
あつあつの飯にふりかけ梅日和
頷きの仕草をつづけ母子草
空海の山にほころぶ藪椿
藪内静枝
玻璃ごしの姉の見舞いの余寒かな
黒猫の恋よ奇妙な声を上げ
梅の昼皿に取り分け「福ハ内」
一向に丈の伸びない法蓮草
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