香天集9月18日 岡田耕治 選
谷川すみれ
入りくんだ水のかたちを赤蜻蛉
宿題の録音を終え敗戦日
まなざしの笑っておりぬななかまど
いくたびも閉めては開ける秋の風
三好広一郎
秋澄むや洗わず捨てるマヨネーズ
右手から夏が離れる自由形
百日紅出来た気になる逆上がり
新米や生卵よくお喋りす
辻井こうめ
いつよりか母の鼻唄花野径
はたはたや九歳の壁超えてくる
秋ともしカバー掛けたる三鬼かな
ガラス瓶いつの日使ふ鷹の爪
木村博昭
匿ってくれる祖母居し花木槿
とんぼうに見られていたる二人かな
宴果てし地上のよごれ月澄みぬ
弓張の月を黙って塾へゆく
宮下揺子
百日紅レム睡眠に赤々と
図書館の本の中より秋思くる
震災忌アラビア糊の古びたる
さえざえと現を写す滝の裏
小崎ひろ子
本棚を衝立として秋の虫
図書館の柿の木家永研究書
伝聞をふるいにかけて秋あかね
猩猩緋目立たぬ場所に秋祭
楽沙千子
紫蘇の香や八十路の指の渋深し
新涼や顔面ほてる厨事
日日の八十路の重み走馬灯
山嶺を襲っていたり蝉時雨
岡田ヨシ子
配給の米に加わり甘藷
藷の穴防空壕としていたる
種藷の暗さに聞けり戦闘機
話す人一人ずつ減り小鳥来る
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