2022年10月30日日曜日

香天集10月30日 玉記玉、石井冴、谷川すみれ、森谷一成ほか

香天集10月30日 岡田耕治 選

玉記玉
これは檸檬フェチシズムの硬さ
セブンイレブン月光が水臭い
黄昏を触れて過ぎたる酒林
木犀や脳のどこか赤児泣く

石井 冴
クリックで木馬が来たり銀杏散る
人類のひとり橡の実食べ始め
人類も馬も早足神無月
新藁や何度も指を突き刺して

谷川すみれ
白菜をざくり私は女なり
裸木やみんなが水を買いに行き
炬燵から離れてゆけりどこへ行く
大寒や鍋の底まで語りつぎ

森谷一成
遊び人出でてバッタの横っ飛び
摩天楼へ赤満月を率て帰り
秋茄子父の愛した浪花節
  落柿舎にて
まつろわぬ柿と去来が膝を拍ち

木村博昭
川筋に醤油蔵あり赤とんぼ
鬼の子の記憶薄れてゆくばかり
木犀や忘れいしこと蘇り
側に六法全書銀杏散る

佐藤俊
銀木犀のごとき老人策を練る
螻蛄鳴くや十万億土の嘘ほんと
馬跳びの一瞬間の昭和かな
地球史の人なる証九月尽

辻井こうめ
どんぐりの袋逆さに鍵探す
木の実落つ片方だけのイヤリング
秋潮へ細むるまなこ岬馬
シャッター街シャッターに描く秋の虹

神谷曜子
泡立草体内の橋ふと渡る
去る人を敢えて忘れる櫨紅葉
読みかけの聖書と眠り金木犀
銀木犀私の隙間占領す

河野宗子
平凡な村にも香り金木犀
秋深山摘草料理待ちにけり
秋の雨雨と名のつく菓子口に
平和なる空を語れる稲穂かな

野村正孝
血に染まる白き糸あり彼岸花
秋晴のおもちゃ売り場の戦車かな
そぞろ寒城下の壁に遊ぶ猫
白猫の大あくび見え城の秋

藪内静枝
野路菊の今年しゃ素直に咲き揃い
ひたすらに明日を信じ林檎むく
頓堀を歩いていそうこの案山子
焼き秋刀魚箸のはじめを香りけり

岡田ヨシ子
九十を生きてきたりし油照
転がりぬアスファルトには血のタオル
草むしりはじめよとこの秋の草
洗濯機炬燵布団が首を振る
*岬町小島にて。

0 件のコメント:

コメントを投稿